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恋心**言えない想い(3)

「みやび、だれ?」  好きな人に会えるって思うと心が弾む。  雅さんが好きなシチューを持ってきたよ、って伝えようと口を開けた直後、あまりにも雅さんの近くから女性の声が聞こえたから、弾んでいた気持ちが一気に消えた。  ……ああ。今日、彼女さん居たんだ……。  それもそうだ。だってご両親が留主なんだったら彼女を部屋に連れ込むくらいするだろう。誰だって好きな人ならずっと一緒にいたいって思う――。  ぼく、馬鹿みたいだ。雅さんに会えるってひとりで浮かれちゃってさ。  雅さんには彼女さんがいるのに――。  手にしていた鍋がなぜだろう、ものすごくちっぽけなものに見えて、開きかけた唇を噛み締める。ぼくの脳裏には、街中で見かけた時の――雅さんと女の人がふたり仲良く寄り添い合っている姿が脳裏に()ぎった。  木枯らしが容赦なくぼくの体を突き抜けていく。  寒い。凍ってしまいそうだ……。 「……っつ!!」  悲しくて、悲しくて……苦しくて。  痛い。胸が張り裂けそうなくらい痛いよ……。  あまりにも苦しくて、結局ぼくは何も言わずに立ち去った。  さっき出て開いたばかりのドアを閉める。  スリッパに履き替えもしないで素足のまま、リビングのテーブルに片手鍋を置いた。雅さんに渡そうとしていた鍋がコトリと虚しく音を立てる。  恥ずかしい。  自意識過剰すぎる。  シチューを持って行ったら、またあの優しい笑顔が見られると思うなんて……。鍋を見るのも惨めで惨めで仕方なくて、早くひとりになりたくて――。この場所から消え去りたくて、自分の部屋に向かう。

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