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叶わない恋**優しい手のぬくもり(1)

「お茶持ってくるわね」 「すみません、気になさらないでください。すぐ帰りますから」  どうして?  どうしてここにいるの?  入ってきたその人は、本来ならここには居ない人だった。  だからぼくは瞬きを繰り返した。 「さっき、来てくれただろう?」  そう言って、普段鋭い射抜くような目がスッと細められて優しく笑う。  そう言って、目を瞬いているぼくの頭を優しく撫でてくれる。  (みやび)さん……。  ……そっか、インターホンにぼくが映ってたんだ……。  今更気がつく大失態に、また情けなくなる。 「どうして……」  ぽつりと独り言のように尋ねると、「うん?」と小首をかしげて訊いてくる。 「彼女さん……は?」  もしかして彼女さんよりもぼくを優先してくれたのかな? 淡い期待を持ってしまう。  雅さんにとって、ぼくは彼女さんよりも価値があるのかもしれないと勘違いしてしまいそうになる。  だけどそれとは逆に、彼女さんと雅さんが互いに信頼し合っている証拠なんだと思えば、胸がズキズキ痛み出す。  どうしよう。  また……泣きそう。  そんなぼくを引き寄せて、頭を撫でてくれる雅さん。ぼくは雅さんの力強い手の感触を感じながら、そっと目を閉じた。 「絢音(あやね)のことかな? 彼女なら大丈夫、少し出ると言って来たから。だけどサクラくんの泣き虫さんは昔から変わらないな」  頭上でクスリと笑う息が、頭のてっぺんにある一本のカールした髪に当たった。それがこそばゆくて、心地いい。

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