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叶わない恋**優しい手のぬくもり(3)

「サクラくんを見ないなんて、その人は見る目がないね」  自分のことだと思わない雅さんは、そう言ってぼくの背中を撫でてくれる。  ねぇ、雅さん。  ぼくが好きな人はあなたです。  撫でられる感触にそっと目を閉じる。  この気持ちが届いてほしい。だけど嫌われたくない。  複雑な気持ちが行ったり来たりを繰り返す。  そうして流れる穏やかな空間。  だけど長くは続かないのは知っている。案の定、雅さんとのひとときはチャイムに邪魔されてしまった。  母さんが玄関のドアを開たらしい音がした。  きっと雅さんの彼女さんだ。  訪問者が誰なのかを瞬時に理解したぼくは体を震わせた。雅さんはぼくの頭をひと撫ですると立ち上がった。  雅さんの顔は見られない。  だって、ぼくじゃない人の姿を思って優しく笑っている顔なんて見たくないから。  だけど、ねぇ。  離れて行かないで。  ぼくの傍にいてください。  そっと手を伸ばして雅さんを追いかける手は空をなぞる。  雅さんが……帰ってしまうんだ。  ぼくは雅さんを追いかけて、急ぎ足で玄関まで向かった。  見えたのは雅さんと……肩を並べていた、あのショートカットの女性。  雅さんの彼女さん。 「もう、雅ったら、ちょっと隣の家まで行ってくるなんて言ってから戻らないんだもん」  雅さんは怒り肩になっている彼女さんの背中を押して、謝りながら出て行った。  ふたりのやり取りが気になって、いけないと思いつつ、驚いている母さんを横切って雅さんに続いて玄関を出る。  それとほぼ同時に乾いた音が響いた。

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