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叶わない恋**優しい手のぬくもり(4)
隣を見れば、左頬をさする雅さんに背中を向けて去っていく彼女さんの姿があった。
「あ……の……」
「怒らせちゃった」
ぼくに気がついた雅さんはそう言って微笑んだ。
その微笑みは、すごく寂しそうだった。
その日を境に、彼女さんを見かけなくなった。
怒らせちゃったんだ。
それって、ぼくのせいだ。
謝ったら、違うと否定してくれた。
最近行き違いが多くなっていたんだと、雅さんは眉根を寄せて笑う。
ぼくが泣いていたせいだ。
優しい雅さんはぼくを放っておけなかったから……。
雅さんは彼女さんがすごく好きなのに……。
ぼくのせいで雅さんが傷ついている……。
それなのに、雅さんが彼女さんと上手くいってなくて良かったと思う自分もいる。
なんて自分勝手だろう。
自己嫌悪。
雅さんが悲しんでいるのに、一緒に悲しめないでいるなんて……。
それにおじさんとおばさんが旅行で、しばらくの間一人暮らしも同然の雅さんの家にちゃっかり上がり込んでいる。ぼくはなんて腹黒で、なんて冷たい奴なんだろう。
「サクラくんは、今年のクリスマスイヴってどうするの?」
「えっ?」
今日も夕方に、『晩御飯を持ってきた』という名目で雅さんの家に上がり込み、テレビのある部屋でお茶をいただいている。
そんなぼくに、雅さんは突然話を切り出した。
「近くに美術館が新しく出来たって言うでしょう? もし、何の予定もなかったら、一緒に展覧会に行かない?」
雅さんからの突然の言葉に耳を疑った。
だって怒らせたとは言え、雅さんには彼女さんがいる。
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