13 / 41
叶わない恋**優しい手のぬくもり(5)
イヴは彼女さんと仲直りをする絶好のチャンスだ。だからきっと雅さんも彼女さんと過ごすだろうと思っていた。
なのに、雅さんはぼくを誘う。
そうしてくれるのはすごく嬉しい。とても嬉しい。
だけど、彼女さんはどうするの?
「あの……」
『彼女さんは?』
気になるけれど訊きたくない。
天邪鬼な気持ち。
それでも開きかけた口を閉じてしまうぼくは、情けないほど臆病者で自分勝手なんだ。
喉まで上ってきた言葉を飲み込んで、「行きたいです!!」と現金なオレはにっこり笑って頷いた。
だって大好きな雅さんとふたりきりで展覧会。しかも3日後のクリスマスイヴ。
雅さんの彼女さんのことなんて忘れてしまおう。
引っ越す前のとても楽しい思い出にするんだ。
うしろめたい気持ちを振り払ってこっそり決意する。
そんなぼくは、実は絵はかけないけれど、絵画を見るのがすごく好きなんだ。
たしか3年前だったっけ、母さんと父さんに用事が出来て、行きたかった絵画展に行けなくて駄々をこねていた時があった。あの時は雅さんが連れて行ってくれたんだっけ……。
あの時は、雅さんが神様みたいに思えたんだ……。
昔を思い出していると、雅さんもクスリと微笑む。
「そう言えば、サクラくんが小学6年生の時だっけ? 絵画見に行きたいって言っていた時があったね」
ぼくが今まさに思っていた光景を、雅さんも思い出してくれていた。
それがとても嬉しい。
嬉しくて胸が弾んだ。
ともだちにシェアしよう!