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叶わない恋**優しい手のぬくもり(5)

 イヴは彼女さんと仲直りをする絶好のチャンスだ。だからきっと雅さんも彼女さんと過ごすだろうと思っていた。  なのに、雅さんはぼくを誘う。  そうしてくれるのはすごく嬉しい。とても嬉しい。  だけど、彼女さんはどうするの? 「あの……」 『彼女さんは?』  気になるけれど訊きたくない。  天邪鬼な気持ち。  それでも開きかけた口を閉じてしまうぼくは、情けないほど臆病者で自分勝手なんだ。  喉まで上ってきた言葉を飲み込んで、「行きたいです!!」と現金なオレはにっこり笑って頷いた。  だって大好きな雅さんとふたりきりで展覧会。しかも3日後のクリスマスイヴ。  雅さんの彼女さんのことなんて忘れてしまおう。  引っ越す前のとても楽しい思い出にするんだ。  うしろめたい気持ちを振り払ってこっそり決意する。  そんなぼくは、実は絵はかけないけれど、絵画を見るのがすごく好きなんだ。  たしか3年前だったっけ、母さんと父さんに用事が出来て、行きたかった絵画展に行けなくて駄々をこねていた時があった。あの時は雅さんが連れて行ってくれたんだっけ……。  あの時は、雅さんが神様みたいに思えたんだ……。  昔を思い出していると、雅さんもクスリと微笑む。 「そう言えば、サクラくんが小学6年生の時だっけ? 絵画見に行きたいって言っていた時があったね」  ぼくが今まさに思っていた光景を、雅さんも思い出してくれていた。  それがとても嬉しい。  嬉しくて胸が弾んだ。

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