でも、一番悲しいのは、彼女さんと雅さんを恋人だと認めたくない自分がいることだ……。 　ぼくは今も雅さんを独り占めしたくてたまらないんだ。 　雅さんの感情を無視して、自分だけのものにしたくてたまらない。 　そんな自分に嫌気がさして、また、悲しくなる。 　何も知らない優しい雅さんは、汚いぼくをこうやって励ましてくれる。 　ズキズキ、ズキズキ。 　ああ、また……。 　深い罪悪感がぼくを襲う。 　胸が痛くてたまらない。 　苦しくて呼吸する息が喉に詰まる。 「そ、それは……もうすぐ引っ越しちゃうから……仲が良かったクラスのみんなとか、雅さんとはもう……会えないのかって思ったら悲しくなっちゃって……」 　――それは嘘。 　引っ越しなんてどうでもいい。引っ込み思案なぼくは友達だってせいぜいふたり程度。お別れを惜しむほどの友達なんてそんなにいない。 　ぼくが悲しいのは、今、こうしている間も好きな人の幸せを祝福できないこと。雅さんと彼女さんがこのまま喧嘩別れしてしまえばいいのにと、思っている自分が居ること。 　――だけど、半分本当。 　だってもう、大好きな雅さんには会えなくなる。 　そう思うと胸が痛い。 　ぼくは一度は持ち上げた瞼を、また伏せた。 　寂しくて、寒くて……あたたかさを求めて湯気を放つミルクココアのカップを両手で包む。 「そっか……引越しは、もうすぐなんだね。でも、引っ越し先はここから三時間程度なんだろう？　言うほど遠くはないよ」 『また遊びに行く』 　雅さんは、にっこり笑ってそう言った。だけどぼくは知っている。 　距離があると、会おうと思わないかぎり会えないこと――。