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初雪**この想いを淡雪にのせて(12)

「このツリーにはね、ジンクスがあるんだって」 「ジンクス?」  雅さんに見惚れていたぼくはその言葉に我に返った。 「そう、ジンクス。『想いあった恋人同士がこのツリーを前にして永遠の愛を誓えば、必ずそのカップルは幸せになる』そう言われているんだって」 「少し少女趣味かな」と、そう言って、雅さんはフッと微笑んだ。その姿も綺麗で、ぼくはまた見惚れてしまう。  だけどね、雅さん。どうして今、そういう話をするの?  だって今そのツリーを前にしているのはぼくだよ?  雅さんもぼくを想っているんだって勘違いしちゃうよ?  ねぇ、雅さんはぼくのことを、どう思ってる?  雅さんは、誰を想ってそれを言っているの?  ギクシャクしている彼女さんを想って?  それとも、隣にいるぼくを考えて?  雅さんの気持ちが知りたい。  言ってしまおうか。  このツリーの前なら、なぜか素直に恋心を打ち明けても悪い結果にならない気がした。  ドクン、ドクン。  ぼくは無言で雅さんと向き合い、寒さで乾燥した唇を舌で濡らす。 「雅さん……あの……」  トクン、トクン。  周囲はカップルが多くてざわめいているにも関わらず、今はぼくの心音しか聞こえない。  頭の中は真っ白で、何を言えばいいのかわからない。だけど雅さんに好きだって言いたい。兄としてではなく、ひとりの人間として……。  雅さんの綺麗な顔を真正面から見つめれば、雅さんもぼくを見てくれる。  トクン、トクン。  うるさい心臓がさらにまた、早鐘を打つ。

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