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初雪**この想いを淡雪にのせて(19)
「……もういいから。放っておいて大丈夫だから……」
お願いだから、もう構わないで。
まるで手に入らないおもちゃを強請って駄々をこねる子供みたいに泣きじゃくるぼく。
そんなぼくの両手は、突然掴まれた。
「さくら!」
「いやだっ! 何も聞きたくない!! 離してっ! やっ!!」
力強い腕に引き寄せられたすぐ後――……。
ぼくの泣き声は唇ごと塞がれてしまった。
びっくりして目を大きく見開くと、大粒の涙が一粒こぼれ落ちて頬を伝う。
強く擦り続けた目尻が涙に当たってヒリヒリする。
唇がリップ音と一緒に解放された。
「聞いて、サクラ……」
ぼくの口を塞いだ薄い唇がぼくを呼ぶ。
キス、された。
でもどうして?
突然の出来事で何も言えなくなって押し黙ると、静かになった隙を狙って雅さんは口を開いた。
「絢音とは付き合ってない」
――え?
何を言ってるの?
付き合ってない?
そんなハズはない。だって、道端で雅さんに寄り添う絢音さんの姿を見た。
あれは間違いじゃない。
それに雅さん家に絢音さんが居た。
付き合ってないなんて、いったいどの口が言うんだろう。
口を大きく開けて抗議をしようとすれば、人差し指が伸びてきて、ぼくの唇に当たる。
それのせいで、ぼくはまた黙ってしまうんだ……。
ぼくの体、いったいどうしてしまったの?
ぼくじゃなくて雅さんのいうことを聞くなんて!
それだけ雅さんのことを好きなんだと思い知らされれば、この想いを汲み取ってくれないどころか、絢音さんは彼女じゃないと言い訳をはじめる雅さんにイラってしてしまう。
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