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7.弱肉強食*
「はい……はい、ああ、そうです……すみません、はい、明日は行きますから……ごめんなさいね、昨日も迷惑かけてしまったのに……はい、はい………」
ペコペコと頭を下げながら電話をしているうぉんを横目に見ながら今日の売上を手帳に書き込んだ。相変わらずスネークアイの売上は悲惨だが今更どうする気もない。流行りを作るのは若者だし、若者が生きにくい世の中のせいということにして考えるのをやめた。
「休んでもいいって?」
「まぁ、はい。彼、私が倒れた時見ていたんでしょう?逆に心配されてしまって…」
「そりゃそうだろ。顔真っ青だったんだぞ?」
好きだと言われてから一日たった。もう一日くらい休んでほしいと頼んだので電話をかけていたところだ。こういう時でしか休みを取らせられない気がしている。
「そうかもしれませんけど………私昨日も丸一日休んでいたのに…」
「んだよ、休めるときに休めや」
納得していないのか王 は明らかに困った顔をする。確かにいつも休むこともなく何かの作業をしている彼が何もしないで一日過ごせたのは奇跡というほかないがガルとしてはもう少し休んでほしいのだ。PCも取り上げて、電話線も引き抜いた。何もできないと嘆く王 に少しだけ苛立ちを覚える。
「休みましたよ…事務作業くらいいじゃありませんか…負担なんてないでしょうし…」
「俺と二人きりじゃ不満かよ」
「え!?ああ、いや、不満なんかありませんが…!そうではなくて、その…」
夕日の光がカーテン越しに入ってきて部屋は薄いオレンジ色に染まっていた。いつもなら王 は既に出勤している時間だ。モノクルもメガネもしていない王 はいつもより幼く見え、可愛らしい。
「何もしていないと…貴方のことばかり考えてしまうというか…」
恥ずかしいのか下を向いてしまった。いいじゃねぇか、それで。好き同士なんだから。
「それの何が悪いんだよ」
「…ッ。私にとっては大問題なんです」
うぉんはなんとなくもじもじとしていて赤面していた。普段恋愛も適当で雰囲気もぶち壊すような俺ではあるが今雰囲気がちょっとずつ変わっていっているのはわかる。それはどこか色っぽいし、エロく見える。
「どんな問題だよ~」
「…もしかして分かって言ってます?そうだとしたら卑怯ですよ」
俺が思っていることがあっているなら、もし同じ気持ちなら手を出してしまっても、いいんじゃないのか。
「分かってないかもしれねーけど…」
そっと近寄って抱き寄せた。抵抗されるかとも考えたがうぉんは大人しく腕の中にいてくれている。時計の音が耳障りで喧しい。急かされているような気がした。
「はは、ガル凄くドキドキしているみたいですけど?」
「人のこと言えんのか」
俺だってこんなにも好きだと思ったのは初めてなんだ。遊ぶだけの恋人じゃない。そんなの経験したことがない。
うぉんを抱きしめたまま手を伸ばして電気を消した。夕日が入り込んでいるせいで暗くはならなかったがそのうち暗くなるさ。
「これじゃあまるで恋人ですね」
「違うのかよ」
「だってまだ…付き合ってくださいって言ってません」
確かにそれはそうだ。好きだと確認しただけ。お互いが好きであるという認識をしただけで付き合うかどうかなんて話をしなかった。でもそれはもう、決まっているんじゃないのか?
「もう、付き合っちまおうぜ。その方が早いだろ」
「何が早いんですか?勿論付き合いたいですけど」
「あ~!まどろっこしいの嫌いだぜ!」
ガルの方が耐え切れずそのままベッドに倒れこんだ。王 も引きずり込んで抱きしめる。そんなの決まってるだろう。好きなもん同士が二人きりでベッドのある部屋に居たら?それも抱きしめあって、ドキドキしてるなら次は?そんなの、答えは一つだけ。
「んぅ!んぁ…ぁん…」
前よりも優しく、確かめるようにキスをした。どこまでしていいのか確かめながら少しずつ、触れ合って甘噛みして互いに口を開いた。
「うぉん…んっ…」
舌が絡み合って口の中が溶けていきそうだ。息が熱くて、とても甘い。このままもう少し溶け合っていたいと思ったのに王 が離れていく。どうして、という前に体勢をくるりと入れ替えられて王 がガルの上に乗っている。下から見上げる形になってぞくりと体が震えた。
「あー?こういうのがスキ?」
「貴方が煽ったんですから、責任取ってくださいね」
当然だ。自分から仕掛けたものは自分で後始末しなきゃいけない。王 が俺の服を脱がし始めている。俺も脱がせてやるか、と手を伸ばそうとしたがその手はうぉんに取られてしまった。
「じっとして?」
目が違う。もう王 は隠してなんかいなかった。欲情した獣の目だ。奉仕されるのも悪くないし、じっとしていよう。そう思ったのも束の間でガルはとある違和感に気が付いた。
「ちょ、ちょっと待て」
「なんですか?今更やめたくなった…とか?」
一方的に脱がされて、両腕を拘束されて、上に乗られて…これじゃあまるで…まるで…。
「お、俺が下!?」
「あら、逆だと思っていたんですか?」
何も疑わず俺が王 を抱くものだと思っていた。だから上に乗られても騎乗位が好きなのだと思って…。おかしい、俺がリードして俺が抱いてやるつもりだったのに今、組み敷かれているということか?
「そ、そりゃそうも思うだろ!お前なんかへなちょこで泣き虫だし奥手っぽくしといてから、急にタチですって顔されてもよ!」
「私はどっちでも行けますよ。俗に言うリバというやつですかね。気持ちがよければどちらでもいいかなと思っているので。でも貴方は抱きたい」
どうして「好き」の一つも言えなくてうじうじしていた男がこういうことは饒舌なのかがわからない。妙に慣れた手つきで下着まで脱がすと王 は胸ポケットからゴムを取り出す。
「んでそんなもんが出てくるんだよ」
「いつも営業してますので」
そうだった。大きい仕事は体で勝ち取ってくる男なんだった。
ゴムを咥えている王 の色気が凄くて眩暈がする。胸ポケットからは使いきりのローションも出てくるし、どうなってるんだ。髪を後ろで結んで準備ができたのか俺の体を撫で始めた。くすぐったくて身を捩る。
「んっ!」
細い指が蛇のように這いずり回っている。ぞわぞわするだけなのだが心臓がバクバク言っている。なんだこれ、俺これ知らないや。
「ガル、本当に鍛えた体って感じがしてかっこいいですよね」
「はは…。ありがとよ…っ、んっ!」
どこも気持ちいところに触れていないのになんだか体が熱くなってきてしまった。むず痒いのにくすぐったいだけなのに何か、違う、奥から熱くなっていくような感覚。このままじゃ俺、なんか…。
「ガル?もうこんなに…」
「言わなくていいぜ…」
自分でもびっくりするくらい体は正直だ。反り返って固くなっている。
「まぁ、人のことは言えませんがね。ほら、私も」
「ぅあ…ガッチガチじゃん」
押し当てられているものはとても硬くて熱い。今から俺、抱かれるんだ。そう考えるともう思考のすべてが侵されていく。どうしよう、今までで一番ドキドキしてる。
「な、なぁ…うぉん?」
「はい、なんですか」
王 となら今までできなかったことができる気がする。きっと俺が知らないことまで全部。
「俺さ、オンナとしても気持ちよくなったことなくて…よ。…だからさ…その…」
「イかせがいがありますね?」
「うぁ!!」
ローションまみれの手でそれを握りこまれた。ぬるっとするのが何とも言えない気持ちよさを生んでびくりと跳ねた。そのままゆっくりと上下に擦られて息が荒くなる。でもこれだけじゃイけない。
「んん…っ」
「焦らないで、ゆっくり…ほら」
ただ上下に動くだけだった指が、少しずつ強弱をつけながら動き始める。それだけではない、もう片方の手で先の方も擦られて声が抑えられない。
「ぅあ、これっ、きもちいっかも…っ」
何かを探るようにいろんな場所を擦ってくる。根元から先端まで細い指で。跳ねるたびに弱みを見つけられてそこばかりを責めるように変わっていく。
「ふふ、なんとなくわかりました。ここ、好きですか?」
「アッ!?まっ…!そ、そこやだ!」
先端をぐりぐりと刺激されると頭の中が真っ白になりそうなくらい気持ちがよかった。指の腹で押されるたびに先走りが溢れてきて自身を濡らしていく。これされてたら…すぐに…っ。
「ン!イけそう、かも…!なぁ、もっと…っ」
「駄目ですよ、まだ」
すっと手が離れていく。欲しいものが貰えなくなった体は小刻みに震えている。どうしてやめるんだと王 の方を見ると王 はニコッと笑ってから指を濡らして、そのまま後ろの窄みへと持っていく。そこは。
「ぁ………」
「痛かったら、言ってくださいね」
王 と目が合った。唾を飲み込んで小さく頷く。ゆるゆると撫でられたかと思えば押し込まれて指が入ってくる。強烈な違和感と圧迫感があるが痛くはなかった。指が中で蠢く感覚に震える。
「痛くはねぇや…」
「本当に?じゃあもう少し」
ぐっと指が押し込まれる。呼吸をどうにか戻そうと必死になっている間に指がスムーズに出し入れできるほどほぐされていた。何度もローションを塗り込まれて、ほぐされて…。妙に中が熱い。
「?な、なんだ?これ…熱い…」
「気づきました?コレ、いいヤツなんです」
中が熱くてジンジンする。痛みどころかなんだか気持ちがよくなってきてしまっている。それはいいことなのだろうが理解が追い付いていない。
「意外と素質があるんじゃないですか?もう二本も入りましたよ」
「ん~ッ!なんかヤダ!なんか…ゾクゾクしてっ…!」
さっきもイきそうでイかせてもらえなかったというのにまた決定打のない快感ばかりで嫌になる。もっとはっきりと気持ちよくなりたいというか、早くイきたいというか。
「ヤダ?じゃあ…やめますか?」
「やぁっ!そうじゃっ…な!違う、もっと…なぁ!」
うぉんは意地悪だ。絶対に分かってやっている。イかせてくれよ。息も絶え絶えでこんなに求めているのになんで。
「ごめんなさい、少しいじめてみたくて。でも、そんな顔されたら私ももう…我慢できない」
「アッ!まっ…て!ま、まだ無理だってっ!うぁ、やっば…」
指の代わりに押し込まれたモノはとても熱くて、指とは比べ物にならないくらい大きかった。無理だと思うのにソレは中を押し広げながら入ってきて、奥まで入ってくる。
「ああ…ガルっ…。私、ずっとこうしたくて…」
王 は泣きそうな顔で笑っている。泣きそうなのに幸せそうで見ているこっちが先に泣きそうだ。
「んな、顔すんなよ…、セックスが台無しだぜ…?」
見栄を張って平気そうにして見せた。本当は苦しい。そもそもセックスすら数えるくらいしかしたことがない上に下になったことなんてない。でも、俺は王 が好きだ。受け入れられるはずだ。
「はは…。そうですよね…、楽しまなきゃ」
「おう、こんなこと許すのはうぉんだけなんだから、たっぷり味わいな…っ!」
「言いましたね?余裕もないくせに」
ぐっと腰を押さえられてやばいと思った。逃げる気なんて無いけれど逃げてしまいたい。強くシーツを握りしめて深く息を吸った。
「動きますよ」
返事はしなかった。それでも伝わっていたと思う。
「っああ!うぉんっ!!ぅうっあっ!」
ローションのお陰で摩擦の痛みはなかった。それどころか中を擦られるたびに電流が走るような感じがする。腰はガクガクして、背中はゾクゾクして。
「こら…ガル、そんなに締め付けないで…っ」
「んなっこと言ったってっっ!なんか…やべぇんだよっ」
ぐちゅぐちゅと水音が立って耳から犯されているようだ。前を擦られるのとは違う快感は堪え切れなくてどうしようもない。
「初めてなのにもう…こんなにトロトロで…可愛い」
「ぅうあっ…それ、そこ…そこ好き…っ」
当たると気持ちいい場所がある。当たるたびに快感が込み上げてきて、それが欲しくてたまらない。気がづいたら自分も腰を揺らしていた。
「ココ?それとも、こっち?」
「そ、それっ!ここっ!ここがっ…っあっ、やべぇっ…んぁ!」
いいところを突き上げられて声が裏返る。動きは決して激しくないのに一定のリズムを刻むようにそこを突かれると目の前がチカチカするくらい気持ちがいい。
「ああ、ガル…、私のこと…こんなに感じてくれて…嬉しい」
「ぅあ…うぉんっ、おれ…もう、イきそう…」
王 にしがみついて、震えながらそう訴えた。体の奥から気持ちよくなってもう駄目だ、込み上げてくる。
「いいですよ、イって?」
抽挿が激しくなって追い上げられるのを感じた。王 が的確にいいところばかりを攻め立てるから我慢なんてできない。
「あぁ!くる…っ!うぁあっ、おれ、おれ…イく!うぉんッ、おれ!」
激しく中を攻め立てられているのに前も擦られる。快楽から逃げられない。
「ん”ん~ッッ!!」
目をつぶって歯を食いしばった。熱い精液が自分の腹にかかってベタベタする。
「しばらく溜めてました?凄いですね」
「うっせ………する機会がなかったんだよ…」
指についた精液を舐めとりながら微笑まれる。そんなもん舐めて美味いのか。
呼吸を整えながら髪をかけ上げる。いつもタトゥーを隠すためにおろしている前髪だが今は邪魔くさかった。
「次からは、言ってくださいね?一緒にしましょう?」
「………、シラネ」
なんでセックスのときだけ生き生きするんだこいつは。元々殺しよりもそっちの仕事を受けることが多かったらしいがあまりにも手馴れた感じが少し気に障る。
「ほーら、貴方は気持ちよくイったかもしれませんが、私はまだですから頑張って」
「あ!?う、動くなら動くって言え!」
急に中が擦れて飛び跳ねた。しかもさっきより深く、奥まで入れられている。もう完全に蕩け切ったそこは侵入を拒むこともなくさらに奥へと招き入れる。
「イった後に…キツく締まるのがまた…っ堪らなく良い…っ」
「ぅあ!まてまて!!それ以上無理だって!入んねぇよ!そんなとこ…!」
腹の奥まで抉られるような感覚に流石のガルでも怖気づいた。そんなとこまでしたら壊れちまうんじゃねーのか。王 の肩を強く押して引きはがそうとしたが王 は止まらなかった。
「奥も気持ちいいんですよ?ほら」
「んあぁぁ!?な…に…」
一瞬トんだ気がした。入っちゃいけないとこまで入ってる気がするのにそこが気持ちいいなんて狂ってる。
「んんっ、またキツく…。私も久しぶりに気持ちよくイけそうですよ…っ」
王 の顔からどんどん余裕がなくなって腰遣いも荒くなっていく。奥をガンガン突かれるたびに天国に行きそうだ。
「ひぁ!おくやだ…っ!おくこわれるって…っ!!」
「ねぇ、ガル…私の名前、呼んで…」
「な…まえ?そんりぇん…?」
「そう…もっと…もっと呼んで!」
王 も声が上ずっている。女みたいに高い声で喘いでいる。ああ、俺だけじゃない。こいつだって気持ちいんだ。そう思うと心のどこかが熱くなって。
「ソンリェン…っ!そんりぇん…ぅあ!ぁあ、おくッ…っ!そん、りぇ…っんぅ!」
下の名前で呼ぶのはいつぶりだろうか。呼びやすいから苗字ばかりで呼んでいた。颯懍 は嬉しそうに何度も頷きながら涙を零している。
「ガル、ねぇガルっ。わ、たしも…っわたしもイきたい…っ。イって…いいですかッ」
「い、イけよ…っ!おれも、また…っイくッからぁ!一緒に…っ、イこうぜ…?」
互いの境目も分からなくなるくらいぐちゃぐちゃで、ドロドロだ。
「あぁ!駄目ッ私イっちゃ…!イくッ!あぁ、あぁあッッ!」
「んぐぅぅっ!イくッイって…!ぅああ…っでてる…」
王 がイくのと同時くらいで俺も我慢できなくなった。聞いたことない高くてエロい声を聞いた。
力が抜けたのか、王 はそのまま倒れるようにベッドに横になった。肩を上下させながら震えて、余韻に浸っている。
「はぁ………はっ、ぁ…んっ…」
「イき方は…うぉんのがえろいな…」
イく寸前に余裕がなくなるとこも、可愛い。気が付けば部屋はほとんど光がなかった。外からのほんの少しの街灯の明かりと、スマホの光だけ。
「イき方って…なんですか…。ガルだってエロいですよ…」
「録音して聞かせてやろうか…」
汗だくでドロドロで、本当なら気分が悪いのだろうが、今はもう清々しかった。
「あ、私の写真消しました?」
「消してねーよ、あんなのもう二度と撮れねーかもしんねーじゃん」
「やめてくださいよ…、あんなの、いらないでしょう…?」
「…いるし。うぉんがいない時とか…」
王 が居ない日に隣に置いて寝ようと思っている。寂しくないように。
「…誰にも見せないでくださいよ?」
「見せたら減るから見せねーよ。あと、今の顔も撮っていい?」
「な、何でですか…」
「うぉんが居ない日にしたくなったら見る」
「………、好きにしてくださいッ」
恥ずかしがって目線を外した王 の写真を撮った。これはロック画面にしたらムラムラしそうだからそっとしまっとこう。
「うぉん、満足した?まだ夜長いし、もうちょいしとく?」
「体力お化けですね、ホント…。………もう少し休んだらするかも…知れないですけど…」
苦笑いする王 に対してガルはにっと笑っている。せっかくの休みだし、思う存分イチャイチャしたっていいじゃないか。布団の中でじゃれあいながらまだ熱い肌を撫であって、笑いあった。今は何時か知らないが、まだまだ時間はあるはずで、もっと愛し合えるはずで。
「次はナマでしてくれよな、ダーリン」
「後悔しますよ」
暗闇が二人を匿ってくれている間だけもいい、二人でどこまでだっていけるさ。きっと、どこまでも。
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