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10.隠し事

 騒々しい音が外から聞こえるのでいつもは眠りについている朝に目が覚めた。外に出れば3台の車と黒スーツの男性が数人とその真ん中にガルがいる。 「豪勢ですね」 「甘やかしパパだからな」  ガルが私の横に行くのを見ると黒スーツの男性達はそそくさと車に乗り込んで一人だけになった。 「では私たちは行きますねガレアッツォ様」 「おう、パパによろしくな」  ガルが手を振って黒スーツの男性を見送った。嵐のようにあわただしく車は家の前から走り去っていってすぐに見えなくなった。 「貴方そんな名前だったんですね」 「あ~、まぁな。ガレアッツォ・アルベルティーニが戸籍の名前になるんか?わからん」  12年も共にいた相棒の名前を知らなかったというのは少し寂しい。でも今なら彼のことをたくさん聞けるかもしれない。 「もう隠さなくてもいいんでしょう?教えてくださいよ、恋人に隠し事なんて酷いですよ」  玄関を閉めて鍵をかけた。そのまま2階まで上がりながら会話を続ける。 「言うほど隠してねぇよ。スパイだったのはホントなんだけど、青龍にボコられたときに俺ちょっと記憶トんでるんだよな。そん時から喋れなかったし」 「喋れなかったのはわざとじゃないんですね」  初めに会ったときはあーあー言うだけでまともに喋れなかった。ただその時から聞こえる言語を理解できていたらしいので私の暴言も全部覚えていると聞いたときは後悔した覚えがある。 「あー、ほんと。マジで声に出せなくて焦ってたんだぜ?」  確かに自分が明日から言語を何も話せなくなってしまったとしたら焦るどころではない。その状況で暴言を吐かれていたと思うと、胸が痛い。 「本当にごめんなさいね、あの頃…」 「いいんだよ、どこから来たかわかんないやつに優しくできるような世界じゃねーんだもん」  一人が生きていくことで精いっぱいだった。それが言い訳にはならないが世界のせいでもあるだろう。私がマフィアに入ったのも死にたくなかったからだ。 「ちなみにスパイとは何をしていたんですか…?」 「それがな…俺そのことボコられた時に忘れちまったんだよ。後から思い出したんだけど、思い出したときはもう、うぉんが青龍から抜けた後だったんだ」  私は彼が受けた暴行に関して何も知らないが青龍は規則を破るだけで酷い制裁があったので相当なのだろう。記憶が一時的に無くなるほど、言語障害が起きるほどと考えるとまともなことはされていない。相変わらず青龍はクソみたいなところだ。 「じゃぁ…なにもしていないと?」 「いや、思い出してから…そうだな~俺が18くらいの時だったから…うぉんが20の時かな?やっべって思ってパパのとこに連絡したんだよ」  何気にガルの歳を聞いたのも初めてだがそれは後から聞くとして話を続けさせた。 「そしたら「探してたよ~」って言われて、事情説明して、忘れてました!って伝えたら「その元青龍の人と協力して勢力拡大を抑えてほしい」って言われてさ。そんときには自分のこと思い出してたんだけど記憶喪失のふりをしたままでいてほしいってことだったから言ってなかった。ごめんな」  コーザ・ノストラは青龍と激しく対立している。ただ今は冷戦のような時期であり小さな抗争はあれどその程度で済んでいる。それでもコーザ・ノストラはどうにかして青龍を抑え込みたかったようだ。 「なるほど。まぁ、組織が絡んでいた以上貴方だけの責任でもありませんし…いいですよ。で?歳は?」 「2007年生まれの25歳ですぅ~」  年下だとは思っていたので衝撃はそれほどなかったが意外と近かったことに驚きだ。2歳差か…。 「あーでもこれからもガルって呼んでくれよ。俺はもうこっちの名前のがいいから」 「まぁガレアッツォだと噛みそうですからね」 「ソンリェンも相当だぞ、自覚しな」  ベッドまで来るとやっぱり二人でベッドに寝転んでじゃれあってしまう。私は5時まで起きていたからもう少し寝るべきだがガルは寝ていたのではないだろうか? 「もう、私はまだ寝ますけど貴方は寝すぎじゃないですか?」 「3時4時くらいに電話してたろ、似たようなもんだって」  確かに私が電話に出たのは4時前くらいだった。反論ができなくなり、仕方なく横に寝るのを許した。 「また、ちゃんと家の事、聞かせてくださいね」 「パパのこと?俺もあんまよくわかんないぜ?」 「それでもですよ。いつか挨拶しにいかないと、私フィンダンツァート(婚約者)みたいなので」 「ケッコンすんのか…?俺ら…?」  まだ告白をしたばかりで結婚など考えたこともないが悪くはないと思う。それこそ何年後の話かわからないが、それでも結婚を考えてもおかしくないような歳ではある。私は両親がいないので、挨拶に行くとしたら祖母の所に行くしかないが優しい人なのできっと許してくれるはずだ。 「さあ?それはゆっくり考えましょう。まだ始まったばかりですし、ゆっくりね」  コーザ・ノストラのことは少々気がかりだが仕事として引き受けた以上やらなければ。 「そういえば依頼内容は?あなたが持ってきたんでしょう?」 「あーこれだよ。かなり忙しくなるぜ」  ガルが手渡した紙にはずらりと依頼内容が簡潔に書かれており、一つ一つに報酬金の目安が書かれていた。要人の排除からシステムのハッキング、航空機のダイヤを乱してほしい等多岐にわたるものだった。 「これは…まぁ受けた以上やりますが…抗争になるでしょうね…」 「だろうな~。死なねーようにしないと」  今、東京は多くの組織が取り合っている状況だ。すでに青龍、ハンマーヘッド、星川組が小競り合いを繰り返している中にコーザ・ノストラが全力で参入したらどうなるか…。 「どんな依頼でも死にそうになったら帰ってきてください、いいですね?」 「わーってるよ、お前もな」  私たちは常に死と隣り合わせだ。そんな隣人を欲しがった覚えはないが、今の日本で生きていく以上、仕方がないことで。 「…。私たちは」 「ツインヘッドスネーク!」  そっと腕をぶつけ合って、抱き合った。こんな穏やかな時間が、ずっと続いていきますように。何年も先も、愛し合っていけますように。そう願いながら(ウォン)は目を閉じた。

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