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11.仕事の合間に

 ガルが帰ってきた日から私たちは休む暇もなく仕事をしていた。ガルは完全に店を閉め、長期休暇という事にしている。私の店は他の店員がいるため営業はしているが臨時の店員を雇った。つまり私たちはカタギの仕事から離れているのだ。  元中国系マフィアという印象があるのかコーザ・ノストラの人たちからの印象が良くないらしく、取引の度に嫌な顔をされる。裏社会では自分の経歴を隠す方が難しく、反論しないで居るのだが今日も罵倒されて気分は良くない。報酬がいい仕事に文句はつけられないが溜息が止まらない。 「まぁ、仕事はきちんとしてくれるのでいいですが」  ガルのいない部屋の中で深く息をついた。そもそも私がマフィアの一員になった理由は生きるためだ。私の両親は10歳の頃に亡くなった。そこから私は家無しの一文無しで東京の中に放り出されたのだ。その状況で、どこの組織にも所属しないで物乞いだけで生きるなんて私にはできなかった。生きていくために手段を選べることは贅沢なことなんだ。  昔を思い出しているとガルから連絡が来た。”今から帰る”とだけ入力されている。その文字に少し嬉しくなって微笑んだ。最近はガルに会えるだけでとても嬉しいのだ。そこまで遠くに行っていないはずだからすぐに帰ってくるはずだ。帰ってきたら抱きしめてくれるだろうか?キスしてくれるだろうか?そう思っていたのはいいものの時計を見るともう2時を回っている。…。電車がないな。少し悩んだが電話をかけることにした。 「もしもし?お疲れ様です。今電話大丈夫ですか?」 「おう、仕事は終わってるからな」 「もう電車無いでしょう?迎えに行きましょうか?」  迎えに行かなくてもどうにかして帰ってくるのだろうが早く会いたい気持ちの方が強かった。ガルは私の気持ちを察してか明るい声で返事をした。 「お~助かるぜ~。どこで待ってりゃいい?駅とか?」 「貴方がいるところは見えますから、動かないでいてくれたらどこにいても迎えに行きますよ」 「頼もしいぜ。じゃ、待ってるわ。コンビニには行くかもしれんからちょこっと動いてたらごめんな」  地図を開いてみればそう遠くないところにガルのアイコンがある。電車で移動する距離だが車なら今の時間はすいているしそう時間はかからなそうだ。車のカギを持って駐車場に向かう。 「お~早いじゃん?」  コンビニの駐車場に車を止めるとすぐ乗り込んできた。手には袋を持っていて買い物が終わった後だと分かる。 「何買ったんですか?」 「ん~?お菓子~」  袋の中身を見せながらそう言った。ポテトチップスやチョコレートの箱などが見える。 「こんな時間にお菓子ですか?」 「い~じゃん、頑張ったご褒美ってことで」  助手席に座り込んだガルがちゃんとシートベルトをつけたのを確認してからハンドルを握った。 「あとこれも買った」  運転しながらちらりと横を見るとガルがゴムの箱を持っている。それもちょっといいやつなのか高級そうな箱だ。 「なんでそんなもの買ってるんですかっ!」 「最近忙しくてシてねーじゃん?この箱カラになるまでしよ~ぜ?」  にっと笑いながら箱を揺らしている。ガルは本当に誘い上手というかなんというか。恥ずかしがらずにしたいと言えるのはちょっと羨ましいが運転中に言われても困る。 「…帰ったら覚悟しておいてくださいね」 「もちろん~♪俺がギブアップするくらいまでしたいぜ~」  私の方が先に息切れしてしまうことは目に見えているのだがそれくらいしてほしいとねだってくるのは初めてだ。 「眠れませんね、それじゃ」 「あ~…うぉんには寝てほしいからちょっと手加減するか?」  家に帰るころには3時になっているだろうにひと箱なくなるまでやっていたら日が昇っているに違いない。明日も仕事はあるし少しくらいは眠らなければ。 「まぁ気が済むまでするのはこの一件が終わったころにまたしましょう」 「おう、楽しみにしてるぜ」  車通りの少ない道を走りながらこの後のことを思い浮かべてムラムラした。いつもよりアクセルを踏み込んでしまい焦るように家へ向かうことになった。

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