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回想 タトゥーを入れた日
※回想の為、いつ読んでいただいても構いません。
自分の腕のタトゥーをなぞってみる。俺のタトゥーは消えないほどの怪我をするたびに増えていくが一つだけ怪我をしていないのに入れたタトゥーがある。蛇のトライバルタトゥーだ。これはツインヘッドスネークを立ち上げた時に王 と二人で入れたタトゥー。あの時は確か…王 が言い出したんだ。
「は?タトゥー?」
「ええ…」
何故個人で仕事を受けるだけなのに二人でそろって痛い思いをしなければならないのか。
「嫌ですか?ならいいんです」
嫌も何も、意味が分からない。そう告げると王 は持論を語りだした。
「マフィアでは忠誠の証としてタトゥーを入れることがあるそうです。私は個人で仕事を受けたいですが殺しや暴力沙汰は貴方より得意ではない…。だから貴方と仕事をしたいのですが貴方がいつ裏切るかなんてわかりませんよね?貴方が私を裏切らないというなら一緒にタトゥーを入れてください。もちろん強制はしませんよ」
確かに俺と王 は何かに縛られて一緒にいるわけではない。押し付けられた孤児なのだから王 が放り出しても何も言えないし、俺がどこかに行ってもいいのだ。だからこそのなにか「刻みつけるもの」が要るということらしい。納得できないが信用が得られないのも嫌だ。一つくらいならと渋々承諾し、頷く。
「変なデザインじゃなきゃ、入れるよ」
無難なものにしましょうと提案する王 。軽く検索して出てきたデザインを数個提示してどうですか?と聞いてくる彼に意見を言った。
「蛇…なんてどうだ」
「蛇?いいですが…貴方店の名前もスネークアイですし蛇好きなんですか?」
まぁ、と曖昧に答える。蛇にはいろいろな意味があって再生とか繁栄だとか、はたまた霊力があるだとか色々言われているが俺が好きなのは「永遠」という意味を持つという説だ。脱皮をするからとかウロボロスがどうとかそういったやつらしい。詳しいことは全く知らないがそれでも信じるにはいい言葉だと思う。だが、そのことを言わなかった。
「貴方が蛇がいいと言うなら蛇にしましょう」
「ん」
蛇のタトゥーのデザインを検索する王 に思いついたことを言う。
「なぁ、俺たち”ツインヘッドスネーク”とかどうだよ?二人で一匹の…双頭の蛇ってことで」
「二人で蛇のタトゥーを入れるんですから、似合わないことはありませんね…。それでいいでしょう」
頭がいいからきっとそのうちそういう意味があるということも気が付くのだろうができるだけ長い間気が付かないでほしいと思う。半ば依存気味なんだと気づかれたくないからだ。依存というと大げさとも思うが言葉が不自由な頃からずっと世話になってるのだから今からきっぱりお別れサヨナラという気にはならない。友人でも家族でもないのにそんなにくっついていっていいものか悩むことはあったが王 の方も離れて欲しくないようなのでそこは心配しなくてもよさそうだ。
「じゃ、決まりな。俺は飯食いに行くから」
無愛想に部屋を出ていく。何か後ろで言っていたが聞かないようにして階段を下りた。…。多分、きっと…いや予感がするだけだが王 もそれなりに俺に依存している。最初は俺にひどく当たっていたはずなのにいつの間にか割れ物を扱うかのように慎重になっている。不安定な日本で信用できる仲間がいるというのはそれほどに縋りたくなるものなのかもしれない。
「パパ、俺は多分スパイに向いてないぜ…」
静かにスマホの録音を切ってSNSを開いた。聞き出せることを聞かないで、雑談して…もう、駄目だなぁ…。
「信頼ないのも、仕方ないな…」
数日後、タトゥーを入れて痛い腕をかばいながらベッドにもぐりこむ。初めてのタトゥーはそれはもう痛かった。慣れない痛みに顔を顰めてこの年で泣きそうになった。なんでこんな思いをしなくちゃならないんだとぶつぶつ文句を言っていたら王 も布団に入ってきた。金とスペースの節約のためにダブルベッドなのだがいつも背を向けて寝る王 が向かい合うように寝ようとする。
「…なんでこっちみてんだよ…」
「………あなたと逆の方に入れたんですから。こんなに痛いのに下にして寝れないでしょう?嫌なら寝る場所を変えるしかありませんよ」
確かにそうだ。痛い腕を下にして寝るわけにもいかない。不満がありながらもそのまま目閉じて眠ることにした。視線を感じるのは、多分気のせいだ。向かい合っているというのを気にしすぎなんだと言い聞かせてそのまま、眠りについた。
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