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14大仕事

 日も昇りきらない時間に起こされる。それは予測していたことだし、前日から知ってはいるが流石に深夜に寝て早朝に起こされると機嫌は良くなかった。 「…起きました?」 「ん」  唸り声のように返事をすると(ウォン)が苦笑している。起きなければいけないということはわかっているが本能的に寝ていたいと思う心もあって起き上がれない。王は機嫌を損ねないようにあまり積極的に声をかけては来ないが通話を切らないあたりに優しさを感じる。機嫌の悪い恋人が向こう側にいるのに、寝てしまわないようにと寄り添ってくれるのは彼の面倒見の良さのおかげだと思う。 「おこってねーからな」 「分かってますよ、何年貴方と一緒にいると思ってるんですか?12年ですよ」  眠気に押されながらもふりしぼっていうと今度は優しく笑った。本当に嫌だったら通話に出ないし、出たとしてもすぐに切っているでしょう?と笑う。確かにそうだ。俺ならきっとそうするだろう。 「…もう起きたからお前は寝てもいいよ。お前も寝てないだろ?」 「いえ、私もやることがありますから」 「体弱いくせに」  何度も倒れているというのに王は仕事ばかりしている。これがワーカーホリックというやつか? 「今日が終われば休みますよ。今日は大仕事ですから」  今日の仕事はズバリ陽動作戦のようなものだ。コーザ・ノストラが起こす行動に目がいかないように中立の立場の俺たちがほかの組織に喧嘩を売る。この作戦が終われば俺たちは中立でありながらマフィアの保護下に置かれる。それはかなり有難いことだが抗争を引き起こす引き金になるのだから数日は命の危機と向き合わなければならない。つまり今日が終われば戦場、彼が休む時間など無いはずだ。しかし大仕事を受けたのだから逃げるわけにもいかず止めるわけにもいかない。 「………ぜってぇ、休ませてやるから」  体力も力もない王から離れているというのは何よりの不安要素だ。もし早い段階で俺たちが特定されたら、彼を守れるかどうか自信がない。それでも、やらないといけないのか。 「はい、一緒に寝ましょうね」  明るくそういわれると何が何でも寝てやりたくなる。予定を何度考え直しても俺が家に帰れる時間なんてない。それでもどうにか、帰れないものか。 「ああ、そうしよう。俺はもう行くから」 「いってらっしゃい。サポートは任せてください」  俺は通話を切り、ベッドから飛び上がった。今日何をするか、それは頭に叩き込んである。バーミラノの協力者と二手で青龍の拠点を叩く。二人でどこまでやれるかは未知数だが、それでパパ達が動く時間を稼げたらそれでいいのだ。  王との通話を切った後別の電話番号を入力した。協力者は多い方がいいと思ったから、急遽連絡を取ろうとしている。今日の用事で今日来れるような奴は、あいつしかいない。 「お~ガルか?どうしたんや?」 「谷川、ちょっと仕事の話があって連絡した」  アメリカギャング、ハンマーヘッドシャークの自称幹部、谷川だ。俺とは取引関係にあって、仕事の横流しを受けたり仕事を紹介したりしている。 「お、ええな。最近食費にこまっとったんや、ええ仕事なんか?」 「そりゃもう大金入るぜ、山分けだけどな」 「元金なんぼや」 「ざっと300かな」 「ほんまか?その話乗るわ」  なまりが特徴的な彼は俺らと同じ江戸川区に住んでいる。拠点はこの辺りではないので車も持っているし移動も早いだろう。 「今日、青龍を叩く。場所は後で送るわ」 「ハァ!?正気か?ほんまにやばいで今」 「正気。大丈夫、俺に協力してくれたらコーザ・ノストラはお前らに味方してくれるようになるさ」 「そりゃまた凄いツテやな…、そこが金出してくれんのか?」 「そうだな、詳しいことは会ってからいうからとりあえず今から送る場所まで来てくれ」  もう少し話したそうになにか声を出していたが強引に切って、メールで場所を送信した。急いで着換えて荷物を整理したらホテルの部屋を飛び出して走り出した。今日、東京が騒がしくなる。悪い意味で、だが。

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