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15.痛み

 ニュースの速報が目に入った。おそらく抗争のニュースだ。建物から煙が立ち上り、多数の車と銃声。そして避難勧告の情報。ガルは今頃あの中で死闘を繰り広げているに違いない。私も、逃げなければ巻き込まれる。できれば県外へ、千葉の方がいいか。千葉には協力者もいる。そこまで逃げられればきっと私は助かる。引っかかることと言えばガルが助からないかもしれないということだ。彼にも協力者はいるとはいえ乱戦の中にいる。だからといって彼の元に行くには私は情けない存在過ぎる。私ができることは祈ることだけ。 今日のために確保してきた安い車に飛び乗ってエンジンをかけた。私は逃げる。罪悪感に苛まれながらも今できることはそれしかないのだ。逃げた先でも支援はできるはずだ。私が得意なのは情報収集だから、それが役立つ時が来るはず。 通りに出るとそこはもう無法地帯だ。市民は混乱し、信号機が何も機能していない。我先に逃げようと車が猛スピードで駆け抜けていく。普段ならそんな道路は避けたいが今はそうも言ってらいれない。千葉の協力者には連絡をしてある。安全は確保できるはずなんだ。  交差点を右折し暴走車両の多い道をどうにか進んでいく。骨は折れるが、抜けられない道ではない。無茶な運転をしながら、思考はグルグルと回っている。できるだけ青龍の拠点から離れた道を行くルートを考えながら進むが、事故があって通れない道もある。ここからどうやって行けば最短か必死に考えながらハンドルを切るが、次第に回り道が重なって拠点近くの道にいることに気が付いた。これはまずい。私は慌てて引き返そうとするがバックした瞬間爆発音がした。そしてガラスの割れる音。  ――撃たれている。幸い怪我はないがこのままではまずい。  ビルに突っ込む勢いでアクセルを踏んで一か八か廃墟のビルへ逃げ込むことにした。何が原因か分からないがきっと敵は私を特定している。このままでは車ごと爆破されかねない。車を柱にぶつけて停車させ、荷物をもって外へ駆け出した。今はガルがいない。戦ってくれる人はいないのだ。護身用にと持っていた拳銃を握りしめて隠れられるところを探す。出来るだけ冷静に、冷静にと言い聞かせるものの、うまくはいっていないようだ。廃墟を走り回り外から死角となりそうな場所に入り込んだ。これならしばらくは…。そう思った時だった。 「已经有一段时间了(久しぶりですね)(ウォン)?」  背後からの声に、凍り付いた。振り返るとそこに立っていたのは私が青龍所属だった頃の上司だった。肩に入ったタトゥー、目元の傷。間違えるはずがない。 「…できれば、会いたくなかったですね、張」  撃てるかもわからない拳銃を構えて後ずさりする。その抵抗で逃げられるなんて思えないが私にできることはそれくらいだ。身体能力は高くない。走って逃げきれる体力もない。消耗しきる前にどうにか切り抜けなくては。 「日本語、とても、うまくなったみたいですね?私より、きっと」  張の手に見えるのは簡易的な爆弾か何か。粗雑な品ほど威力がとんでもないこともある。これで私を殺す気か。 「それは私へのプレゼントですか?はは…贅沢ですね」 「本当は違う、でも、きみにあげるよ」  遠くから爆音。また何か吹き飛ばされたのだろうか。どうかガルだけでも、無事でいて欲しい。  張が腕を上げて、持っている爆発物をこちらへ投げようと構えた。その瞬間、バカかもしれないが張のほうへ走っていき、彼に思い切りぶつかった。私が死ぬのはいい。なら、道連れだ。 「私と一緒に地獄に行きましょう!!張!!!」  爆弾は落ちた衝撃で爆発したようで私の視界は一気に赤く染まった。痛いというより熱い。私の悲鳴か、張の悲鳴か、はたまた他の人の悲鳴なのか分からない声が耳に入ってくる。目は開けれなくなった。ごめんなさい、ガル。一緒に眠れなさそうです。  西から銃声。それほど近くはない。 「あかん!限界や!!ガル、やすまへんか?」 「休めそうに見えるか?」  今は周りに敵はいなさそうだがゆっくり休めるような環境じゃない。 「とりあえずγ地点まで行けば増援がいるから、そこまで行くぞ、谷川」 「は~食費のためにこれはしんどいで~」  死体だらけの廃墟を駆け回って目的の地点に急ぐ。そう遠くはないし、今なら一直線に行けそうだ。 「帰ったらタコ焼きやな~…ってあれ王ちゃうか?」 「はぁ?うぉんは今頃千葉で…、……っ!」  隣のビルで血だらけで銃を握っているのは王……?割れたモノクルを付けている。あのブランドのモノクルは数量限定で、早々かぶるものではない。まさか。 「おぉい!ガル!そっちは逆方向やで!先に増援…!ってアホ!」  窓をぶち破って二階下へ飛び下りる。下の車のボンネットに着地して隣のビルに入っていった。さっき見たのはたぶん右の部屋だ。急いで部屋に入り込むとそこには二人の死体と血だらけで這いずり回っている王がいた。 「……!来るなっ!」 「おい!うぉん!俺だよ!」  咄嗟に銃を構える王。だがそれは全くこちらを向いておらずよく見れば目も開いていない。それどころか呼びかけにすら応答していないように見える。 「ここが私の墓場だとしても、抵抗はやめませんよ」 「聞こえてないのか?うぉん!」  ピクリと動いた気がするが気のせいか。パニックになっていて聞こえないのか、他の要因かは分からないがとにかく聞こえていないらしい。とりあえずどうにか運ばないと……。 「…!」  後方から足音。5?いや10はいるかも。ガルは銃を構えた。 「かかってきな!今の俺は最強だぜ?」  わざと大声で挑発した。彼をかばいながらどこまでできるかは未知数だが、きっと今が一番の大仕事。 「俺はツインヘッドスネーク!お前らを殺す男だよ!」  ガルは引き金を引いた。

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