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17(終).そしてその先も

 何かの物音で目が覚めた。一瞬何処か分からなかったが、そうだ昨日は病院で寝たんだ。大きく伸びをして周りを見渡すと王と目が合った。 「あ、起きてたのか」 「ええ…さっき起きました。医者からも話は聞いています」  ショックを受けるだろうと思っていたのに、王はかなり冷静で落ち着いているように見えた。ただいつものように元気そうでもない。 「大丈夫か…?」 「…、まぁ…死ぬ覚悟で突っ込んだんですから、生きていて良かったですよ。怖くないといえばウソになりますが」  王は必死に足から目を背けているように見える。それもそうだ。ひどい怪我だったのだから。痛みも相当なものだろうし意識を逸らせないのかもしれない。 「俺が、傍にいるからさ」  のそのそと起き上がって王のベッドに腰かけた。 「ありがとう、でも私甘えすぎだなぁって思ったんです」 「甘えすぎ?別にいいぜ」 「いいえ、そうでなく。こんな戦場の真ん中にいるのに自分の身も守れないだなんて、情けないじゃないですか」  そりゃそうだろ、戦闘員じゃないんだからと言おうとしたが、王はかつて戦闘員だったんだ。薬物乱用なんかで体を壊したりしなければ今もそうだっただろう。だから今は後方支援をしたり情報の取引なんかに転身してるだけだ。 「…退院して動けるようになったらさ、護身術とか…教えてやるから」 「リハビリ、頑張らないとですね」 「別にいいんだぜ?ずっと俺がお姫様抱っこしてても」 「ちょっと魅力的ですが、ずっとだと心臓に悪いので頑張りますよ」  いつものような笑顔ではないものの少し笑ってくれた。それだけでもいい。 「なんですか、ニヤニヤして」 「ん~?怪我を理由にいちゃいちゃしてぇなぁって」 「ここ、病院ですよ?」  できるだけ負担をかけないようにと思っていたが、欲には勝てないので王の布団の中に入り込んだ。足にはあたらないように気を付けながら横になると王は苦笑いする。 「もう、怒られても知りませんよ」 「え~?やじゃないくせに」  俺がそういうと王は俺を抱き寄せた。痛くないのかと聞くがそれよりもこうしたいらしい。 「嫌なわけないでしょう?あなたが世界で一番好きですからね」 「最近堂々としてきたなぁ~最初、あんなうじうじしてたのに」 「だって…失いたくないので。何度でも言いますよ」  失いかけてたのは、こっちだよ。少し怒りが込み上げてきたがどうにか飲み込んで、堪えた。無茶をして死にかけてたお前をどんな気持ちで見てたと思っているんだと大声で言ってやりたかった。 「…」 「ご、ごめんなさい?」 「べつに~?」  過ぎた話はどうでもいいけれど、今回ばかりは俺もしんどい。結構引きずりそうだ。 「…、言い訳になるかもしれませんが、これからは今までより少しは安全じゃないですか?だからここは堪えないとと思って…その」 「まぁな。パパは東京でうまくやってるみたいだし」  先の話はさっぱり予測できないというのが現状ではあるもののどうにか鎮静化しそうではあった。どこが覇権を握ることになるかはわからないが、これだけは言える。 「ゆっくり愛し合えるかもな」 「そうだといいですね」  危ない場所で綱渡りしながら恋をしたいわけじゃない。できることならゆっくりと腰を落ち着けて愛し合いたいのだ。だれでもそう思うだろうが俺たちは特にその思いが強かった。 「もう、いったん休業しようぜ?パッパが多めにくれたからさ」  相手を、危険に晒し続けなくてもいい生活が少しでも長く続けばいいと思っている。 「長期休暇…というのも悪くないでしょう。バーの仕事は好きなので続けますけど」 「やった!!じゃあ今度こそデートしようぜ!俺ウサギランドいきてーからチケットよろしくな!!あと…そうだなぁ…あれ、あれもさ!」 「はいはい…その前に私はリハビリですよ」  二人分の体温でちょうどいいぬくもりになった布団の中で俺は笑顔で今後にやりたいことを語った。忙しくて行けなかった場所、イベントに仕事なんて考えないでゆっくり行きたい。それだけが望みだ。 「うぉん、俺…お前がこれからどんなに変わっていってもさ、好きでいるから、自分のこと追い詰めないで自由にやってくれよ。逃げたって、いいから」 「……ガル…」  言って恥ずかしくなって布団に隠れた。 「ありがとうございます。ガル、私もずっとあなただけですよ」  隠れた俺を優しく抱きしめるように王は覆いかぶさった。怪我をしているというのに、そんなに強く抱きしめたら痛いのは王じゃないか。 「あー…だめだ、お前の近くいたらお前の怪我治らなそう」 「かもしれませんね?でも、幸せですよ」  幸せならいいのか?いや、そんなことはない。怪我は治さないと。その後の幸せを考えるべきだ。 「しばらくハグ禁止令な」 「なんてご無体な…」  名残惜しそうに俺から離れると不意打ちにキスをしてきた。 「じゃぁ……、こっちはいいですよね?」 「ったく…しゃーねぇなぁ~」  クスクスと笑いあっていた。少しの時間だけの小さい幸せ。  ドアが開いて看護師がこちらを見た。言い訳をしたが結局怒られ俺はいったん帰ることになってしまった。でも後悔はしていない。きっと王もそうだ。 「また、見舞い来るからさ」 「はい、待ってますね」  外は寒くないのに、肌寒い気がした。一人じゃ足りないんだなとしみじみと思う。でも大丈夫だ、俺たちはツインヘッドスネーク。二人で一つだから。  

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