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海に行かないか

 もともと長期滞在の湯治場だったこの寮。浴室は、大浴場とは呼べない広さだけれど泉質が抜群。源泉掛け流し、混じりっけなし! 山の裾野の温泉旅館へと流れていく、こんこんと湧く源泉を一番に戴いている贅沢さ。  泉質は、湯上がりトゥルントゥルンのアルカリ泉だ。  このお湯に惹かれ、入寮早々長湯して意識を失い、助け出されたのは僕。源泉は濃いから湯あたり注意! 今は加減して入ってる。  男同士、好きな時に入れた浴室が、ゴールデンウィーク後は予約入れ替え制に変わった。ひと組30分制限。ひとりなら15分。  ……彼氏の裸を見せたくないんだってさ。  で、取り残されたたった二人のノンケ、僕と綿貫で相談し、15分じゃ慌ただしいから二人で30分ゆっくり使う事にした。  古い湯治場の湯船なので、大きくはない。ヒノキではない木枠の四角い浴槽は、中は段差になっていて深さが場所によって違う。  男子だけなのにカップルだらけ。次の予約の時間を意識しなくちゃいけなくて落ち着けないけど、いつものように顎まで湯に浸かる。  脱衣所で次の奴等とかち合いたくないな、脱いでる所を見たら怒るんだろうな。妙な気遣いが必要になってしまった。どうしちゃったんだ、みんな。  短髪の頭も、身体も、ボディソープの泡でガシガシ洗いながら綿貫が言う。 「さっきのカレーの具がさ、肉が無いから食った気がしない。湯上がりにプロテインでも飲むか!」  出たぞ、プロテイン男。こいつは、自室にプロテイン飲料各種を隠し持つ蛋白質マニア。運動部に所属しているわけでもないのに、いつ見ても、スリムなスポーツ体系をキープしている。  時間がある時、小まめに筋トレでもしているんだろう。 「何? なんか視線の圧力を感じるんだけど? 俺、モテキ到来?」  泡の洗い残しがあるならお湯掛けて、と桶を滑らせて放る。 「いや、鍛えてんなぁと思ってさ」 「それはそれは。お褒めいただき光栄でございまするぅ」  カラカラと笑う綿貫を見ながら、こいつがいてくれてよかったなぁ、と思う。だって、他の全員ゲイ(またはバイ)って、どんな環境だよ! こいつ居なかったらとっくに逃げ出してるよ。  綿貫が浴槽に入って来た。お湯が溢れて洗い場に放置した桶がぷかりと浮いた。 「なぁ、衣笠、お前夏休みはどうするの?」 「帰らないって決めてる。寮の人数は減るだろうから、のんびり出来るといいな」 「俺も帰らない予定なんだ。そしたら、海行こうぜ!  高速道路の下の入り江、穴場なんだって。観光客が来ないトコで焼きたい!」  ほう、細マッチョ君、今年は小麦肌を目指すのか。

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