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こんがり
夏休みに入ると、流石に学食も閉まっているし、学内に居ても仕方がない。学内寮生も山を降り、温泉街でアルバイトするのが主流だ。
僕も週3日、ホテルの喫茶室でウエイターのバイトに就いた。のぼせやすい僕はエアコンが効いた仕事でないとダメだろう、と綿貫が言うので参考にした。
「衣笠、バイトの日は自転車で送ってやるよ」
綿貫は、筋トレの一環で大学のママチャリを借り、休みの間に太ももの筋肉 ハムストリングスを養うのだと。
坂道に、僕くらいの重さの負荷が欲しかったのだそうだ。小柄で悪かったな! お前も少しバイトしろ、筋肉バカ。
時間が空けば、約束通り、高速道路の高架下の小さな入り江で日焼け。
観光の町なのにここだけぽっかり人の気配がない。上を行きかう自動車のエンジン音と波音だけ聴こえる。
元々の色が白い僕は、これまで進んで日焼けしたことがなかったんだけど、綿貫が用意してくれた色白肌用のサンオイルがとても肌に合ったらしく、腫れたり皮がむけたりしないで健康的な小麦肌になっていった。輸入物なのか、ココナツとパイナップルの陽気な香りがする。
手が届かないところを塗ってやり、僕も塗ってもらう。
エアコンの効いた場所での慣れない立ち仕事は、意外と身体に負担が掛かるらしい。首、肩が痛み始めていたけれど、海辺で日に当たっている時間は冷房病が和らぐみたい。そう言ったら、オイルを伸ばしながら肩のマッサージまでしてくれるようになった。
「お前、上手いな」
と褒めると、
「当たり前だろ、筋肉の事なら俺に聞けってんだ!」
と威張られた……。
筋肉マスター? マイスター? 好きなように呼んでやるよ、筋肉男。
「アラ! コンガリ焼ケタネ! タヌキサン、キツネ色ネ」
綿貫の事をタヌキ呼ばわりできるのはスーラジ君くらいだよ。しかし、タヌキもキツネも腹黒く聞こえるのはなんでだろう。
豆のカレーと、残り物だというスペアリブをご馳走になった。さすが専門店!
ありがとうスーラジ君! ありがとう料理長! 学食が開かない夏休み期間、この夕飯がどれだけ助けになっているか!!
骨付きの肉って、時々妙に食べたくなるんだよ。思わぬ贅沢品に、僕等は浮かれて写真を撮りまくった。
「ボクネ、漢字ノ勉強ハジメマシタ。ワッタヌキサン、名前ノ漢字オシエテクダサイ」
「いとへんに…白に巾。わた。めん。コットン!」
「コットン!! もめんデスネ。
ウレシイ! ボクノ家、木綿ヲ売ル会社デス。木綿大好キデス」
覚エマシタ! 木綿サーン! とスーラジ君は喜んでいるが、少しも綿貫の名前と繋がらない……。
「木綿サン、明日ノゴハン、リクエストハ?」
「あ、明日はね、持ってこなくていいよ、悪いね!」
……明日、綿貫は何か予定があるのかな?
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