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需要と供給
「運んでくれたのか。ごめん、ありがと」
「いいえ、どういたしまして。
揺すっても起きないからさ、脱水で意識不明だったらどうしようかと思ってマジで焦った」
「……ごめん」
「それにしても、衣笠は軽すぎ!
もっと食えよ、筋肉が足りねえんだよ!
砂漠のラクダは、あのコブに水を蓄えてるのは知ってるな?
ヒトはコブが無いから筋肉に蓄えるしかないんだよ! 中でも育ちやすいのは太もも、ハムストリングだ!!
夏は太ももを鍛えたものが制するんだ。
今年は俺は万全だっ!ワッハッハ♪」
……出たな、筋肉オタク。
綿貫は、当然ながらいつもの綿貫で、僕ひとりで思考回路をショートさせていたことにすっかり馬鹿馬鹿しくなってしまって自嘲した。
だって、考えても考えても、こうして過ごす時間を失うことなんて想像もできない。
「その自慢の太ももに負荷かけてやったの、誰だと思ってる?
今日の迷惑賃は負荷役の手間賃でチャラだ!
これで相殺にしてやろう! ワッハッハ♪」
僕の、見当違いな俺様発言に、たまらず綿貫が吹き出した。
「なんだそりゃ!自転車漕ぐのは俺だよ?」
ひっでえなぁ! と頭をガシガシ掻き回された。
……これでいい。ズルいかも知れないけれど、今はこのままで居たいと思ってるんだ。
二階の物干し場から寮生の声が聞こえる。
「花火、見に行くか? 起きられるなら」
そうか、今夜は観光客向けの花火大会の1回目だったな。掻き入れ時の週末に開催されるそうだ。この夏あと2回機会があるから、今日は見に行かなくていいや。
「今日はいいや。それより何か食べたい!」
「サラダチキンあるぞ? あとは源泉で茹でた卵!」
!! 見事な天然プロテインコンビ。
ありがとう、お前に聞いた僕が悪かったよ……。
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