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第1話(2)

○●----------------------------------------------------●○ ↓現在、以下の2つのお話が連載中です。↓ 毎日昼の12:00時あたりのPV数を見て、多い方の作品をその日22:00に更新したいと思いますmm ◆『君がいる光』(幽霊×全盲の青年 ) https://youtu.be/VPFL_vKpAR0 ◆『春雪に咲く花』(探偵×不幸体質青年) https://youtu.be/N2HQCswnUe4 ○●----------------------------------------------------●○ アパートの外階段の横を通っている時、丁度、上から下りてくる男と目が合った。 「あっ」 男は陽向を見るなり、みるみる間に顔を青くし、しまいには雪に同化してしまいそうなほど白くなった。 「どうしたのお~海斗ぉ~」 奥側の海斗の腕にぶらさがるようにしがみついていた女が、ひょいっと顔を出す。 不自然なほどバサバサしたつけまつげに、テカテカのピンクのグロス。こんな天気だというのに胸元をあらわにしたド派手なカクテルワンピース。 いかにもな、夜の女だ。 陽向は、自分の頭の中で太い血管がブチリと切れる音を聞いた。 「おいっ、海斗っ! テメエ~!」 静寂とけ込む雪空に、怒声が響き渡る。 「もしかしてお前、貸してやった金で、キャバクラに行った訳じゃねえだろうなっ!?」 「ち、違う、これは同伴出勤でっ……! 俺なら特別に格安にしてくれるっていうからっ……!」 「はぁ~!? つまり、なんだっ!? 人の家で一発ヤったあと、仲良く同伴ってか!?」 バンと踏みしめた足の下で、ギシギシと雪が悲鳴をあげる。 海斗がギョッと一歩下がった。まるで猛獣から身を守ろうとするかのように、腕を顔の前で交差させる。 「待って! 話せばわかる! 話せば、わかるから! ほら、セナちゃんも何か言っ──」 海斗が振り向いた時にはもう、風俗嬢はいなかった。ピンヒールの足跡が、点々と通りの向こうまで続いている。どうやら胸の大きさだけではなく、逃げ足もピカイチな女性だったようだ。 「……ほう、話せばわかるって?」 陽向はポキリポキリと拳の骨を鳴らしながら、海斗に近づく。 「ま、待て! 陽向! 落ち着けよっ! ちょっと相談に乗ってただけなんだ! 彼女、今訳ありで! ただ、それだけだよっ!」 「ほう。じゃぁ、ヤってないと?」 「……いや、ヤったけど……」 ブチリ。今度は全身の主要な血管が、一気に切れた。 「この万年発情期のクサレチ○コザルがあ~!」 陽向はアパートの窓際に置いてあった植木鉢を手に取ると、中身を引っこ抜き、鉢だけを海斗に向かって投げつけた。 「ア、アガッ(痛い)! 危ない! 危ないよ! 」 ひょいと上げた海斗の足下で、テラコッタの鉢が盛大に割れる。陽向は次の鉢を手に取ると、今度は確実に狙いをつけ構えた。 「~ッ、あのなぁ、俺は今更、お前がどこの誰と寝ようと、知ったこっちゃない! けどな、人ん家をラブホ代わりに使うのは許せねえっ!」 鉢は海斗の身体ギリギリのところをかすめて、破片をまき散らした。 これには、さすがの海斗も声を荒げる。 「おい、陽向! やりすぎだ! 当たったら死ぬぞ!」 「死ぬ? お前はいっぺん死んで、蝿から生まれ直した方が、もっと謙虚になるだろう!」 陽向は綺麗に並べられた鉢を端から順番に投げていった。それを海斗は、一個一個かわしていく。三十代に突入したとはいえ、いい運動神経だ。 それが陽向の導火線に、さらに火をつけた。今度はバラが植えられていた大型の鉢を持ち上げると、両手で頭上に構える。 「これで終わりだ! 覚悟しろっ!」 「ちょ、ちょっと陽向!? 嘘だろう!?」 「嘘だと思うなら、その頭で受けてみるがいいさっ!」 「ぎゃ、ぎゃああー! 殺されるぅ! 助けて、助けて~! 早く来てくれ~!」 海斗は、狂ったようにどこかに向かって喚き散らした。 「はっ、誰が来るって言うんだよ、こんな男同士の痴話喧嘩。わかったら、いい加減ちょこまかするのはやめて──」 「──そこらへんにしておけ」 甘く、かすれた声が陽向の耳元をくすぐった。 鉢を持った手に黒皮の手袋をした大きな手が重なり、背後からひょいっと鉢を取り上げる。 「まったく、その細い腕でどうしてこんなものが持ち上げられるんだ」 黒皮の手袋をした男は鉢を階段の下に置くと、コートにかかった砂を払いながら戻ってきた。 「……あんたは……」 目を見張る。 男は、先ほど駅前の本屋で見かけた男だった。 「あんた、一体……」 「良かった! 来てくれたんだっ!」 海斗がヒーローが現れたかのように喜々として男に駆け寄った。 (もしかして、これも海斗の相手……?) 胸に苦いものがよぎる。 やはり、今日の自分は本当についていない。街中で見惚れた男が、まさかクソだらしない同居人の相手だったなんて皮肉すぎる運命だ。 (いっそのこと、精進潔斎でもしにいった方がいいんじゃないだろうか……) にじんでくる涙をどうにか引っ込めようとしていると、 「お願い、助けて! このままじゃ殺される!」 海斗は男の背後に隠れ、相手のコートを掴んで揺する。対する男は迷惑そうに眉を顰めながら、慇懃な声で言った。 「大丈夫ですよ。お二人の身長と体格から鑑みて、彼に貴方をしとめることは無理です」 「でも、今の見てただろう!? こいつ、こんな細っこいけど、キレた時の馬鹿力は相当なんだっ!」 「……おい、お前ら」 陽向はゆらりと二人に近づき、据わった目で睨みつけた。 「それ以上、小さいとかガリガリとか言ったら、シナサリンドー(ぶちのめすぞ)!」 「ひっ」 海斗は再び男の背中の後ろにひっこみ、びくびくしながら陽向を指さす。 「ほら、今の! これで俺の依頼がいかに正当なものか、わかっただろう!」 「依頼……?」 陽向は海斗と男を交互に見、最後に海斗をひと睨みする。 「おい、海斗。依頼って、何のことだ……?」 海斗はたじろぎつつも前に堅固で強大な盾があると気づき、ふふふんと自慢するように肩をそびやかした。 「よくぞ聞いてくれた。この人はなぁ、お前から身を守るために俺が雇った探偵なんだ!」 ※ 人は怒りが最高点に達すると、逆に冷静になるらしい。 陽向はソファに座った男の前にお茶を置くと、テーブルを挟んだ向かいにあるカウチに座った。もちろん、男の隣に座る海斗は完全無視だ。 「ありがとうございます」 男はお茶を一口すすると、懐から名刺を取り出した。 「申し遅れました。わたくし、こうゆうものです」 ──LGBT専門探偵 玄沢(くろさわ)(あつし) 名刺には、そう書かれていた。 「LGBT専門……?」 顔を上げると、海斗が横槍を入れてくる。 「そうなんだ、すごいだろう。この人、普段は普通の探偵をしているんだけど、二丁目にある『ケンタウロス』ってゲイバーのママから連絡をもらった時だけ、LGBT専門──特に、ゲイ専門の探偵になるんだよ! 界隈では有名だぜ! 男同士のカップルの浮気調査とか、痴話喧嘩の仲裁とかしてくれるんだ! しかも、この見た目だろう? 依頼人がひっきりなしでさあ。予約するのも大変だったんだ。ちなみに一番面白いのは、この人、ゲイ専門の探偵なんてしているくせに、自分はゲイじゃないらしくて──」 「海斗。お前、ちょっと黙れ」 ギロリと睨みつけると、海斗はしゅんとソファで身を縮めた。 「……で、その探偵さんが俺に何の用ですか?」 陽向は名刺をテーブルの上に置くと、お茶でガラガラの喉を潤した。 本音を言うと、海斗の連れてきた人間など怒鳴って追い出してしまいたい。たとえ、どんなにいい男でもだ。 だが、そうしたところで自分が不利な立場になることは目に見えている。 「それがですね」 玄沢は一息つくと、事務的な口調で話し始めた。 「謝花海斗氏は、貴方に慰謝料を要求したいと」

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