16 / 21

第14話

○●----------------------------------------------------●○ 1/22(土) 本日、『春雪に咲く花』の方のPV増加数が1ビュー分 多かったので、こちらを更新させていただきます。 動画を見てくださった方、ありがとうございます! 〈現在レース更新中〉 ↓↓以下の作品の1話動画のPV増加数に応じて、 その日更新する作品を決めさせていただいていますm ◆『君がいる光』(幽霊×全盲の青年 ) https://youtu.be/VPFL_vKpAR0 ◆『春雪に咲く花』(探偵×不幸体質青年) https://youtu.be/N2HQCswnUe4 ○●----------------------------------------------------●○ 「はっ! 今、何時っ!?」 差し込む日の光が眩しくて、陽向は目を覚ました。ベッドサイドの時計を見ると、十四時六分。 陽向ははあっと安堵の息を吐き、もぞもぞとベッドから起きあがる。 隣では、玄沢が気持ちよさそうな寝息をたてて眠っていた。そのたくましい腕は陽向の腰に回されている。 まったくもって信じられなかった。 この男と、自分が寝たなんて。 しかも今日——たった六時間前に。 ハッと窓を見た。カーテンの隙間からは、暖かい午後の日差しが燦々と差し込んでいる。 「は、晴れてる! シーツ、干さなきゃ! ってか、玄沢さん! 今日、仕事はっ!? 依頼の予約とか入ってないよねっ!?」 隣で眠る男を揺すり起こすと「うーん」と、もごもごとした唸り声が聞こえてきた。 「……にゃい、と思う……」 「そう、にゃいね。良かった。じゃ、さっさと起きて、ご飯食べて……あ! その前に、新聞取りに行かなきゃ!」 バタバタとベッドから下りると、シーツから伸びた手がベッドへ引き戻した。 「陽向……」 気がついたらベッドの上で、横向きで玄沢と向かい寝そべっていた。玄沢の指が、額にかかる陽向の髪を優しくどかす。 「……陽向、さっきはすごく良かった」 寝起きのかすれ声は、とても甘く艶っぽかった。荒い親指の腹が、陽向の目元をなぞる。 「お前は、とても綺麗だ。この眼も、肌も、何もかも全部」 玄沢の顔の上に浮かんでいたのは、見たこともないような穏やかな笑みだった。 陽向は、自分の体温が一気に十度くらい上がったのを感じた。 「あ……あははは……、やだなぁ~玄沢さん。また寝ぼけて~相変わらず、朝が弱いんだからぁ~」 真っ赤になった顔を見られまいとベッドから這いだそうとすると、またもや手を取られた。ギシッとスピリングがなり、今度は玄沢が上にのしかかってくる。逃げ道をふさぐように両肘が、陽向の頭の両脇に置かれた。 「陽向……」 まだ夢の中にいるような眼が、じっと見下ろしてくる。 「あのクソ男……あぁ、海斗だったか、あいつから尾行用の写真をもらって、それを見て以来、お前のことが頭から離れなくて……そん時は見た目で、きっと繊細で大人しい奴なんだと勝手に思っていたけど……実際会ってみたら……何て言うか、お前は……とんでもない奴だった……植木鉢は投げるわ、ハサミで人を脅すわ、汚い言葉は使うわ、ちっこい体であちこち引っ掻き回すわ……全然、予想と違った……」 「ははっ……すみませんね。繊細でも大人しくもなくて……」 「でも——……」 玄沢の目が、すうっと細まる。 「……だからこそ、一気に引き込まれた……お前は本当に生き生きしていて……一瞬たりとも、目が離せなくなった……それで——」 ゴツン。陽向は玄沢の額に、思い切り頭突きをくらわした。 これ以上聞いていたら、自分の心臓の方が保たなかったからだ。 (ってか、この寝起き癖、どうにかしてくれ……!) 毎回、朝起こる度にこんなことでは、糖分の過剰摂取で死んでしまう。 陽向は額を押さえている玄沢の腕の下をすりぬけると、ベッドから抜け出した。 「~~ッ」 しばらく呻いていた玄沢が、しかめっ面でのろのろと起き出してきた。手で額を押さえ、不思議そうに顔を上げる。 「……何で、俺は頭が痛いんだ……?」 「……覚えてないの?」 「…………」 玄沢はしばらく視線を宙にやったかと思うと、首を捻った。 「お前と寝たことなら覚えているぞ……それはもう……隅々まで……」 「わっー! そっちじゃなくて! わかった! もう、いい! もういいよ!」 陽向は、パンパンと手を叩いた。 「とにかく、起きて! 俺、新聞取ってくるから!」 「……いや、いい……俺が、行くよ……」 「その状態で?」 いまだに額を押さえたまま、目をしばしばさせている玄沢に陽向は意地悪く言った。ベッドの側に近寄り、玄沢の頭にポンポンと手を置く。 「俺が取ってくるから、戻ってくるまでには、ちゃんと起きてなよ。海斗のことも、どうするか決めなくちゃいけないし」 「……わかった、それじゃ……頼む……」 気力を振り絞ってベッドから起きあがろうとしている玄沢を残し、陽向は部屋を出ようとした。だが途中で思い直し、振り返る。 「……あのさ、ちょっと聞きたいんだけど……」 陽向は、落ち着きなく視線をベッドの方へと彷徨わせた。 「海斗からさ、どこまで聞いたの? 俺のその——」 「ベッドでの奉仕ぶりをか……?」 玄沢は、すぐさま首を横に振った。 「ほとんど聞いてないよ。俺はお前の写真に見とれていて、話半分にしか聞いてなかったし。……それに、そういうことは、実地で調べればいいことだからな?」 「なっ……」 カッと顔が熱くなる。床に転がっていたクッションを、玄沢に向かって投げつける。 「バカっ! アホッ! おたんこなすっ!」 「はっ、いつもと違ってキレがないな」 どうやら完全に覚醒したらしい。玄沢はクッションを難なく受け止め、陽向をまっすぐに見つめた。 「陽向、約束してくれないか?」 真剣な声音に、陽向はノブにかけた手を離した。 「約束?」 「あぁ。次、何かあったら、必ず俺に知らせてくれ。たとえどんなに怒って、パニックになっていたとしても。一瞬でいい。俺のことを思い出してくれ」 玄沢の声に、強制するような色合いは一切なかった。きっと上目線で命令されればされるほど、反発したくなる陽向の性格を見抜いているのだ。 陽向は、すとんと頷いた。 「わかった。約束するよ」 玄沢は微笑むと、糸が切れた人形のようにまたゴロンとベッドに寝転がった。 その後、何とか玄沢をベッドから引きずりだすことに成功した陽向は、新聞を取りにビルの一階まで下りた。 ビルの裏口には全テナントの郵便受けが集まっていて、陽向は事務所の郵便受けを確認する。中には新聞の他に、午前配達分の郵便物も届いていた。 それらを手に取ろうとした時。 「な……」 後頭部に衝撃を覚え、郵便受けに手をつく。バラバラと手に取った郵便物が地面に落ち、風俗やピザのちらしに書かれた女性たちが笑顔で陽向を見返してきていた。 「おい、今すぐ車をまわせ」 数人の男たちが話し合う囁き声が後ろから聞こえてきた。 (くそっ、一体、誰がこんな……) 振り向こうとしたが、意志に反して身体と意識がずるずると沈んでいく。 (やばい、玄沢さんに知らせないと……何かあったら、真っ先に知らせるって約束したばっかりなのに——) そのまま、陽向の意識は真っ暗闇に落ちていった。

ともだちにシェアしよう!