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夕飯での出来事 2
それが面白かったのか、くすくすと笑う兄がいた。
「朝と昼と、それにお風呂であんなにも動いたもんね、それはお腹が空いているに決まってる」
堪えきれず笑い続ける兄に、そういえばと巡らせる。
朝起きてから、ずっと縛られた上に責められ続けられていて、今日は全く食べてないことに気づかされた。
ゴクリと喉を鳴らし、何とか手を合わせ、「いただきます」と言った後、箸に手を伸ばそうとするが、見当たらなく、しかも、短く縄で縛られていて、思うように動かせない。
それに気づいた兄は、「ごめん、ごめん」と兄の方にあったらしい箸を手に、ご飯の入ったお茶碗を手に持つ。
「元々僕が食べさせようとしていたのに、葵が可愛い反応を見せるからつい、笑ってしまった」
「え、それって、なんで」
「なんでって、僕がそうしたいから。葵は、嫌?」
「嫌、って·····」
兄の満面の笑みの目の奥から感じる圧から逃れるように、視線を下げた。
ここで、嫌、自分で食べるなんて言ったら、兄からどんな酷い責めを受けられるのだろうか。
想像すらしたくない。
もう、自分でシたい時に出来ない状況にはなりたくない。
顔をそろりと上げ、こちらの返事を待っている兄と目を合わせる。
「兄さんの手から食べたい。食べさせて」
恐る恐るそう言うとぱぁっとさっきよりも笑みを深める。
「ふふっ、そうやってお願いするの可愛いな。分かったよ。·····あーん」
「あ、あーん·····」
おずおずと口を開け、ご飯を一口口に含む。
緊張の方が大きいようで、お腹が鳴っていたというのに、あまり美味しく感じられない。
兄の、「美味しい?」と首を傾げながら訊いてくるのを、「うん、美味しいよ」と食い気味で頷く。
「じゃあ、今度は煮魚でも食べる?」
「うん」
一口分にして口に運び、それをゆっくりと咀嚼する。
あーん、と言いながらこちらに料理を差し出す時よりも、食べている時に見ている眼差しが嬉しそうに見えた。
人の食べているところが好きだという人がいるが兄もそんな感じなのだろうか。
けれども、ずっと見られているのもなんだか気まずくて目を逸らしてしまう。
好きな人を見ると、ご飯三杯は余裕だという話を聞いたことがあるけど、自分の場合、恥ずかしくて食べる手が止まってしまいそうだ。
食べる時ぐらい一人でゆっくりと食べたいと思う。
これじゃあまるでまだ親鳥から餌をもらっている雛鳥のような気分だ。
昔はよく兄にあーんをしてもらって嬉しかったはずなのに、状況が状況だからか、ちっとも嬉しく感じられない。
早く終わらないかな。
今度は味噌汁を差し出してくる兄から口を寄せて、どうにか飲みつつ、そう思った。
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