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出会ってしまった 3
それから何日かして、碧衣は桜屋敷の家へと向かうことにした。
この数日、何をしても頭の隅であの時の出来事がチラついて、離れなく、嫌になり、自分の目で確かめてみ
ようという結論に至った。
「ここが、桜屋敷·····」
碧衣は自分の家の門のような門を見上げて呟く。
門にも名字にちなんだ桜の彫刻が彫られており、これも塀と同じく、綺麗だなと見とれそうになり、首を振る。
「いけねぇ、見ている場合じゃない」
しかし。一歩踏み出しかけて、留まる。
このまま正面突破をして、この家の人に何と説明をすればいい?
単なる友人でもない自分が何の用で会えばいいんだ。
それに、学校まで辞めさせるのだから、よっぽど人に会わせたくないのではと思えてくる。
だとしたら。
あの日、お婆さんが素敵だと言っていた塀の壁に桜の形にくり抜かれた部分を覗いたことを思い出す。
ひとまずそこにまた行って考えようと、その塀まで行くことにした。
学校は授業の真っ只中で学生もおろか、人っ子一人もいない。
閑静な住宅街の中、学校に行くべきはずの男子生徒が同級生の家をうろつくという、異様な光景。
客観的に見て何をやってんだと思いながらも、何気なく目線近くにあった、塀の桜をかたどった部分を見やる。
しかし、何度見ても見飽きないものだ。あのお婆さんの言う通りだ。
と、そこで自然と中を覗く形となり、じっと見る。
あの日見た場所ではないようだ。前よりもはっきりと中が見え、庭に大きな池があり、奥には縁側、それから──。
「は··········?」
声が漏れていた。
何せ、その縁側の上を見ると、何故か宙吊りにされ、こちらに丸出しの尻を晒し、身悶えしている姿があったからだ。
顔は見えないが、恐らくあの時見た、クラスの人達が言っていた、弟の方だろう。
どうして、また。
気づけば、桜の形にくり抜かれた部分を使って塀に登り、敷地内に入っていき、その人物の近くまで来ていた。
徐々に不法侵入だなと罪悪感を覚えながらも。
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