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会ってみよう 4
どうにもこうにも今の状況ではまとまらなく、行動に移せそうには無かった。
ひとまず、今は。
「ごくたまにしか行けないけどさ、会いに行ってもいいか·····?」
「え··········」
いつの間にか桜屋敷はぽろぽろ流していた涙が止まり、きょとんした顔で見つめる。
「あ、いやっ! なんてかさ、桜屋敷のことを放っておけないというかさ、もうちょっと話してみたいというかさ·····」
「本当っ!? 僕も西野寺君ともっともっと話してみたかったんだ!」
頬をかいていた碧衣の手をガシッと掴んで、喜びに溢れた顔を向ける。
視界にいっぱいに広がる、今日初めて見た表情に、ドキリとする。
笑うと可愛いな。
たしかに女子達が言っていたことは頷ける。ベビーフェイスも相まって、人懐っこそうな顔をしているのだから。
癒される。
「·····? 西野寺君、どうしたの?」
「·····っ! な、なんでもねぇ!」
気づけば、桜屋敷のことを見ていたらしい、少し口を開けた桜屋敷がさっきよりも顔を近づけて、こちらをじっと見つめるのを、咄嗟に顔を逸らしてしまう。
突然の碧衣の反応に首を傾げていた桜屋敷だったが、「西野寺君、小指出して」と言われる。
「どうして」
「約束。昔、兄さんと約束する時よくしていたのを思い出して、やってみたくなったんだ。ダメ?」
「ダメ·····って、言われても、な·····」
こちらに小指を差し出してくる桜屋敷の小指を見つめる。
生まれてこの方、指切りげんまんというのをしたことが無い。
今の今まで友達と呼べる友達がいなかったからだ。いつも遠巻きでそれをしている同級生を見ていた。
それが今、自分に向けられるだなんて。
いい歳してこんなことで喜んでしまいそうになり、つい、小指を差し出そうとしたが、「ダメだ」と手を握った。
「どうして」と悲しそうな顔をする桜屋敷に、うっ·····と小さく呻いた。
「本当の本当に、いつ来れるかどうか分からないからだ。約束を守れそうにない」
「そっか·····そうだよね。嬉しくてつい、約束しようとしちゃった·····」
「あ·····桜屋敷·····その──」
「分かった! じゃあ、この約束はまた違う時にするね」
にぱっと笑う桜屋敷に、少しホッと安堵をする。
とりあえずは悲しそうな顔を見なくて済んだ。
「長く話しすぎちゃったね。まだ大丈夫だろうけど、早めに帰った方がいいかも」
そう言われて、咄嗟に携帯端末を見ると、二限目が終わる時間で、「もう、こんな時間なんだな」と呟く。
「そうだな。念の為、帰らせてもらうわ」
立ち上がり、踵を返す。
と、その直後、「西野寺君っ!」と呼ばれる。
「え、まだ何か用か?」
「ううん。じゃあね、って言いたくて」
なんだ、そんなことか。
小さく笑うと、手を振る桜屋敷に、「じゃあ」と手を振り返す。
再び前を向いた碧衣の表情は、自然と綻ばせていた。
何なんだろうか、この胸が熱くなるような感覚は。
そっと胸に手を当てながら、外へと出向いた。
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