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夏の暑さより·····。 7

「兄さん、まだ何か·····──あっ」 俯かせていた顔が上がった時、声が上がる。 「西野寺君! やっと、来てくれたんだね!」 本当に心から嬉しそうな顔をする。 その顔を見て、碧衣は暑さが吹っ飛んだ気がし、同じように笑みを返す。 「なかなか来れなくて、ごめん」 「·····ずっと、待ちわびてた。·····寂しかった」 「桜、屋敷·····?」 独り言にも似た桜屋敷の呟きに碧衣は戸惑いを隠せなかった。 頻繁に来ていたら、きっと誰かに見つかってしまう。今もどのタイミングで兄が来るのか分からないものだから、そういう緊張もあった。 だけど、こんな今にも悲しそうな顔をする桜屋敷を見たくないから。 だが、無理だ。 気軽に会いにいけないじれったさに、力強く握りしめた時、何か持っていたことを気づく。 そうだ。今日来た理由は、これを渡すためだった。 涙を堪え、膝辺りをぎゅっと握りしめる桜屋敷の前に座った。 「桜屋敷、これ」 ずいっと、持っていた綿あめの入った袋を差し出す。 え、と驚き、顔を上げた瞬間、ぽろりと一粒涙が頬を伝うが、気にもせず、ただ碧衣が持ってきた物を不思議そうに見つめていた。 「え、えと·····これって、綿あめ·····?」 「ああ、そうだが。·····嫌いだったか?」 「ううん。とても好き。僕のために買ってきてくれたの?」 「まぁな。昨日、ダチが女にナンパしたいからって、一緒に祭りに行かされたんだ。その時に、ついでにな」 全くついでにではないのに、照れくさくてぶっきらぼうに言い放ってしまった。 桜屋敷は綿あめを受け取り、「友達って、山中君と石谷君のこと?」と訊いてくる。 「ん? そうだが·····よく知ってるな」 「もちろん知っているよ。山中君も石谷君も、そして西野寺君も大切なクラスメートだもん。そのぐらい覚えているよ」 大切なクラスメート。 その言葉を聞いた瞬間の違和感を覚えたことに首を傾げた。 何かに不満を持っているような。 その何に不満を持っているのか分からず、モヤモヤしてくる。 「クラスメート、ね·····。俺らってその程度の関係なのな」 「西野寺君·····?」 「あ·····っ、いや、なんでもねぇ。今の言ったことは忘れてくれ」 慌てて、再びそっぽを向いた西野寺は、桜屋敷が首を傾げている気配を感じ、「さっさと食えば」と促し、横目で桜屋敷が頷き、袋から取り出すのを見ていた。

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