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夏の暑さより·····。 8
「わぁ·····」
小さく喜びの声を上げた桜屋敷につられて見た途端、目を見開く。
昨日、しっかりと締め、冷凍庫に入れたお陰で、元の状態のまま維持されている綿あめをキラキラした目で、ほんのりと顔を染め、じっくりと見つめている桜屋敷の姿があった。
こんなにも綿あめに嬉しそうにする人がいるなんて初めて見た。
あらゆる角度で綿あめを堪能した後、「いただきます」と言って、はむっと口に含む。
途端、破顔し、「ん〜!」と美味しそうな喜びの悲鳴を上げていた。
続けざまに、二口、三口と食べ、ゆっくりと咀嚼し、四口目を口に開いたが、ぴたりと止まり、口を閉じてしまい、綿あめを見つめていた。
その眼差しはどこか悲しそうだ。
もう、満腹になったのだろうか、と聞くが前に、桜屋敷の方が先に口を開いた。
「昔ね、雲を見てヨダレを垂らしたことがあったんだ。雲って食べれるのかなって。その疑問を兄さんに言ったら、『雲って食べれるんだよ』って答えが返ってきて、びっくりして、『食べたい!』ってせがんだら、ちょうどお祭りの時期だったから、お父さんと一緒に行った時に買ってもらったんだ。『これが、雲だよ』って。恐る恐る食べてみたら、思っていたよりも甘くて、けど口に入れたらすぐに溶けてしまったから、悲しくて泣いちゃって、二人を困らせたんだよね。そのことを、綿あめを見る度に思い出しちゃって、これは雲じゃないのに、そうだとまだ信じている自分がいて、食べるのがもったいないなって」
えへへと、照れくさそうに笑う桜屋敷に、今の話と相まって、ドキッとしてしまった。
なんて、純粋で可愛らしいのだろうと。
自分には綿あめに対してそんなこと思ってもなかった。
ただ当時観ていた戦隊モノの袋が欲しくて買ってもらっただけ。
綿あめの方がおまけだった。
綿あめってだけで人によってはこんなにも価値が違うだなんて。
まだ食べようかと躊躇している桜屋敷に、綿あめをちぎり、半ば無理やり口に入れる。
急にされたのにも関わらず、拍子に口に入った綿あめを驚いた表情のまま、ゆっくりと口を動かし、ごくん、と喉が上下する。
「西野寺君、どうして·····?」
「今さ、ともかく桜屋敷の食っているところが見たくてさ。腹がいっぱいなら仕方ないが·····」
「ううん! まだ食べれるよ!·····えと、じゃあ、食べるね·····?」
おずおずと訊いてくる桜屋敷に、「食ってくれ」と返すと、綿あめを少し見つめた後、食べ始める。
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