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夏の暑さより·····。 9
夢中になって、喜びに満ち溢れて食べる桜屋敷に魅入られたかのように、見つめていた碧衣は無意識のうちに口元を緩めていた。
こんなことで楽しめるって、何なんだろうなと思いながらも。
あと三口程度で食べ終わりそうなところまでになった時、「西野寺君」と呼ばれ、何、と言おうとした時。
フワリと口に入った瞬間、白いのがシュワっと溶け、ふんわりと甘さが広がったことにより、遅れてそれが綿あめだと気づいた。
半ば呆然としていると、「美味しい?」と悪戯っぽく笑った。
「は? いきなり何してんの」
「それはこっちのセリフだよ。さっきされたしね。お返しだよ」
「お返しって、お前·····」
仕返しだろ、と突っ込もうとしたが、どうでも良くなり、笑っている桜屋敷につられて一緒になって笑った。
山中と石谷といるとは違う、楽しさ。
桜屋敷と綿あめでだけで楽しめるのなら、こんなになる前に話してみれば良かった。人に興味が無さすぎたなと自分の行いに後悔していた。
その時、また、「西野寺君」と呼ばれ、桜屋敷の方を向いた瞬間。
唇に何かが触れた。
それが桜屋敷の唇だと気づいたのは、桜屋敷が離れた後だった。
後ろに倒れそうになりつつも、どうにか手を支えに、「な、なんで·····」と目を丸くして、同じように頬を赤くしている桜屋敷のことを見ていた。
「最後の一口だったから、おすそ分けしようと思って、つい·····」
「ついって、お前·····」
自分からしてきたというのに、言った後自覚してきたのか、さっきよりも顔を赤らめて、棒だけになったのを握りしめたまま俯いていた。
えー、何なんだよ、その反応は。
悪い気はしないと思っていると、下半身がズボン越しでも分かるぐらい膨らんでいることに気づき、サッと隠す。
本当に空気を読まないなとイラッとしつつも、気まずさに耐えかね、袋と棒を奪い取って、「じゃあなっ!」とロクに挨拶もせず、慌てて立ち去る。
何か言いたそうに声を上げた桜屋敷に気づきもせず。
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