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夏の暑さよりも·····。10
「あぁっ! 待って、西野寺君!」と呼び止めるが前にさっさと彼は走り去ってしまった。
思わず差し伸べていた手をゆっくりと下ろすと、小さく息を吐く。
そっと自身の唇をなぞる。
まだ西野寺のと触れ合った感触が残っている唇。
途端、ボッと顔が真っ赤になる。
「·····僕、何やっているんだろう·····」
綿あめを手に西野寺の口に入れた時、指が唇に触れた。
水分が足りてないらしい、カサついた唇。
きっとそのぐらい外は暑かったのだろう。この部屋から出ることが自由であれば、水をあげたいと思うぐらい、魅力的だと思わないそれに、葵人にとっては理由はないけど、触れてみたいと思ったのだ。
いきなり触らせてというのも変な話だし、とはいえ唇を重ねるのもどうかと思うと自分自身に突っ込みを入れる。
当たり前だけど、まだ口の中に残っている綿あめの甘い味がふんわりと漂った。
もう少し触れたかった。ううん。もっと。
兄以外でここまで人に興味が出てくるとは思わなかった。これじゃあまるで·····。
葵人は耳まで真っ赤になり、のたうち回っていた。
雲は甘いということを知った。
ふんわり、ふわふわ。
今の気持ちは空に浮かぶ雲のよう。
いつまでも味わっていたい、甘さ。
この気持ちを知りたくなかった。知りたくはなかったけど。
「西野寺君に、今すぐにでも会いたい·····」
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