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告白の秋 2
「じゃ、何? 俺が優のことが好きって言ったら、恋人になってくれるの?」
「秀以外なら」
「俺以外か〜·····って俺以外かいっ!」
思わず箸を持っていた手で石谷を突っ込む。
石谷は気にした様子もなく、もぐもぐと焼きそばパンを食べ続ける。かと思いきや、喉に流し込んだ後、口を開く。
「男と女が好きになるのと同じように男同士、女同士で好きになる人も中にはいるんだよ。世間ではさ、男と女が一緒にいるてのが当たり前に言われているけどな、ダチみたいな関係よりもそれ以上の関係や恋愛に似た感情、一緒にいたい、頭ん中で好きな相手のことばかり思い浮かべて、その相手のことが忘れられなくて、恐らくその相手が好きであろう物や共通の物を肌身離さず、持っていたりとかな」
後半のところから、何故か碧衣のことを見ながら話す。
「·····石谷。お前も俺があの先輩のことが好きだと思ってる?」
「まさか。だって、碧衣ちゃん、あの先輩のことを見ている時、すげぇ目つきだし。何かあったのか?」
開いた口が塞がらなかった。
自分が知らず知らずのうちにそんな顔をしていただなんて。
ここまで来たのならもうごまかしは利かないのではないだろうか。
嘘に嘘も重ねられない。
しかし、今まで友人に相談というものをしたことがない碧衣にとっては、ずいぶんと高い壁を乗り越えるぐらい難しいことであった。
──碧衣ちゃんは変に遠慮するんだからさ。こういう時は遠慮せずに、俺らに頼れよ。
桜屋敷にりんご飴を買って、それを喜んでいる妄想をごまかすために、人酔いしたと嘘を吐いた時の、石谷が言ったことが頭によぎる。
言われてみればたしかに、何かと気を遣う同級生に気を回せないようにとした結果、遠慮する癖がついてしまい、それが返って距離を置くこととなってしまった。
どう接したらいいのか、分からなくなっていた。
今も一瞬はそう思っていた。
だけど、そうだ。そのようなことを言われたのは初めてだ。
言っても、いいんじゃないのか。
食べる手を止めている友人らがじっと見て、こちらが言うのを待っているのを一瞥した後、唾を呑み込んで、ゆっくりと口を開く。
「·····桜屋敷のことが、気になるんだ」
「「··········」」
数秒の沈黙。
その間のクラスの喧騒がよく聞こえた。
「·····んっ? それってやっぱ、桜屋敷先輩のことが好きなんじゃん」
「ちげーわ。あんな人間のクズじゃなくて、同じクラスだった──」
背筋に冷たいものを感じ、思わず口が噤む。
それは、ありとあらゆる方向から感じる、視線。
周りを見ずとも分かる。クラス中の女子達の殺意だ。
つい言ってしまったことが周りにも聞かれているとは思わなかった。
「·····後で、話す」
辛うじて小声で言えた言葉はどこか震えていた。
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