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別れの冬 1
決意を固めた日から実行しようとしていたというのに、何度か踏みとどまってしまい、気づけば秋は終わり、寒さで身が震える冬へと移り変わっていた。
桜屋敷の誕生日は分からないが、多分、二年に上がってからすぐぐらいに学校を辞めさせられたことから、春生まれなのだろう。だとしたら、この冬が終わるまでに桜屋敷をあの家からどうにかしないといけない。
いいや、それよりも先にこの想いを告げた方がいいかもしれない。
桜屋敷の返答によっては、この決意は無かったことになるのだから。
「どうしたものか·····」
「え、何? 碧衣ちゃん。もしかして桜屋敷のことで悩んでる?」
「もうクヨクヨ悩んでないで、さっさと言っちまってもいいんじゃないのか? 意外といけるんじゃん?」
「そうそう! 今の桜屋敷の状況って、あれじゃん?·····あれ、だよ、あれ·····えーと·····不安がっている時のドキドキでなる··········あ、釣り堀効果!」
「吊り橋効果な。お前、碧衣ちゃんと桜屋敷を魚の餌食にする気かっ」
パシンっと、山中の頭を後ろから思いきり叩く。
前のめりになっていた山中は、頭を押さえ、涙になりながら、「このー! いきなり何するんだよ! これ以上バカになったら、優のせいだかんな!」とワーワー騒ぐ。
いつの間にか立ち止まり、ケンカしている二人を置いて、碧衣は一人帰り道を歩く。
石谷が言っていたように、クヨクヨと悩んでいないでさっさと言ってもいいような気がしてきた。
もし、こちらの事が好きじゃなかったら、桜屋敷はあのまま兄に身を捧げ、生涯、産まれてくる子供と共に暮らしていくのだから。
最後に会った夏の日でも、桜屋敷は必ず兄の話をするほどだ。いつまでも仲良くしていくだろう。
自分はそのまま、桜屋敷のことを忘れるだけ。
「·····忘れられるのか·····俺は」
きっと桜を見ただけで桜屋敷のことを思い出してしまう。
照れたように笑う顔。
偶然にも好きだと言っていた綿あめを美味しそうに頬張る顔。
自らしてきたクセに真っ赤になった顔。
今でも桜屋敷のことを思い出しただけで色んな表情がハッキリと浮かぶ。
忘れられるわけがない。
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