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別れの冬 4

見知った塀の桜をかたどった穴を見つけ、小さく声を上げる。 話をしている間に、桜屋敷の家の前に来ていたようだ。 その様子に気づいた山中も石谷も揃って、見上げる。 「碧衣ちゃん家もすげーとは思ったけど、桜屋敷の方も負けず劣らずすげーな」 「名前に桜があるから、塀のが桜の形になっているのか。妙にシャレているな」 「ああ、教えてもらったことだが、本当に·····」 その桜にそっと触る。 出会いはこの桜の穴を覗いたことだった。 あの時の衝撃は思わず頬が赤くなってしまうものであったが、あの出会いが無ければ、この桜屋敷を想う気持ちは無かった。 「でさ。碧衣ちゃん。いつもこの塀を登っていたんだって? なかなかにやるよね〜! 学校ではさ、見た目以上のことをしてこなかったのに、これも愛ゆえってやつ?」 「うるさい」 肘で小突いてみせるが、山中はなんのそのと言った様子で、楽しそうに笑っていた。 「この(バカ)に構っている場合じゃなくね? さっさと行った方がいいぞ」 「バカってなんだよ! 自分で十分に分かってら!」 「それもそうだな。行ってくる」 「碧衣ちゃん〜! ひどぉ〜い」 桜に足を掛け、よっと言うと、塀の中へと入る。 その間も山中は、「無視かよ〜」とかなんとか言っていたが、碧衣も石谷も無視し、碧衣は先へと進む。 靴を脱ぎ、雨垂れ石、縁側と踏みしめ、障子の前へと来る。 数ヶ月も来れなかったが、その間は桜屋敷はどうしていただろうか。 一歩も外に出られず、見渡す限り、暇を潰せそうな物さえ無く、退屈していなかっただろうか。 何もかも悪いことをさせてしまった。 その意味も込めて、この部屋から解き放つ。 一呼吸置き、障子を思いきり開ける。 「桜屋敷」 「! ·····その声は、西野寺君·····?」 開けたのと同時に静かに桜屋敷を呼ぶと、こちらに背を向けていた桜屋敷が驚きの声を上げた。というのも一瞬で、涙を溢れさせ、しゃっくり声を上げ、「西野寺君っ!」とこちらに駆け寄ろうとする。 突然のことに戸惑いを覚えながらも迎えようとしたが、足に繋がれていた縄が短かったようだ。駆け寄ったのも一瞬で、転倒してしまう。 「桜屋敷っ!? 大丈夫か!」 慌てて桜屋敷の元へ向かうと、「えへへ·····大丈夫·····」と困ったように笑う顔を見せる。

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