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別れの冬 5

「·····っ」 心臓が大きく鼓動する。 あまりにも不意打ちすぎる言葉に赤くなっていた顔を隠すように、そっぽを向いた。 「どうしたの、西野寺君? って、顔が赤くない? えと、今寒いみたいだから、熱でも出しちゃった? 大丈夫?」 「ち、違っ! そうじゃね·····!」 顔を覗きこまれそうになるのを必死に逸らして、誤魔化そうとする。 そうしていると、桜屋敷の方が諦め、「ふーん·····? だけど、無理はしないでね」と姿勢を正す。 少し冷静になってゆき、どうにか顔を冷まそうとはするが、なかなか冷めない。 いつまでもこうしているわけにはいかないのに。 苛立ちが募る。──と。 ふわり、と包み込まれる。 人の温もり。 それが桜屋敷が抱きしめてきたのだと遅れて気づき、だが、いきなりどうしたのか。 「桜、屋敷·····?」 「·····こうしたら、あったかいかなと思って、つい·····。やっぱり、外は寒いんだね。西野寺君の体、冷えてる」 さっきよりも密着する。 こんなにもくっついたら、自分の心臓の音が桜屋敷にも聞こえてしまいそうで、恥ずかしい。 夏の時も思ったが、この部屋は適温のようで、桜屋敷の体はちょうど良い温かさだ。いつまでも感じていたいぐらいに。 だけれども、体型が相変わらず女かと見間違うほどの華奢な体つきだ。そんなたおやかな花のような体を自分が触れてしまったら、折れてしまいそうだ。 ふっと、桜屋敷の顔をチラ見する。耳だけが見えた時、小さく笑ってしまった。鮮やかに咲く真っ赤な薔薇のように、赤くしているのだから。 自ら唇を重ねた時もそうだが、結局は自分も恥ずかしがるのに、何故行動に移すのだろうか。 そこが可愛くて好きなのだが。 そのお陰かずっと緊張していた気持ちが落ち着いていた。今なら言える。 「桜屋敷。そういえば、名前は何て言うんだ?」 「えっ! あ、名前! 名前だね! ·····葵人って言うんだ。兄さんと同じ読みなのだけど、漢字は草冠に──」 「葵人」 「·····はい? ──っ」 唇を重ねる。 名前を呼んだ瞬間、背中に回された手が緩み、その瞬間を狙った。 少し長い時間、潤いのある柔らかい葵人の唇と触れ合う。 自らしたのはこれが初めてであり、 今まで重ねたことが無かった不器用な唇を離す。 「──葵人、好きだ」 未だに火照って、薄く口を開いたまま呆然とこちらを見つめる葵人に微笑に近い顔を向ける。 すぐに返事が来ない。思っていたよりも声が小さかったのだろうか。 それとも嫌だったのだろうか。 不安になりそうな時、熱でも出したのかと思うぐらい真っ赤になり、パクパクと金魚のように口を動かしていた

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