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春の誕生日と儀式に。2
チクッ
17歳の時と同じようなことをやるんだと思った時、下腹部辺りが痛みを覚える。
起床した時もそうなっていた。腹痛とは違う痛みにどこか具合が悪いのではと少なからず不安になる。
無意識にその辺りに手を触っていた葵人に、「どうしたの」と兄は訊いてくる。
「あ、起きた時もそうなんだけど、この辺りが、お腹が痛くなった時とは違う痛みがするんだ。僕、どこか具合が悪いのかな?」
「·····それは、本当に·····?」
言った途端、これ以上ない、だが、堪えている笑みを見せてきたのだ。
どうして、そんな反応を?
「にい、さん·····?」
その表情が返って怖くなり、兄を呼ぶ声が震えていることに気づいた。
そのことに気にもしてない兄は、「そうか·····そうなんだ」と言いながら、慈しむように頬を撫でる。
「僕のことを受け入れる準備が始まっているんだね。嬉しい。やっぱり、葵は僕のことが好きなんだね」
好き。
単純に兄のことは好きだった。いつも笑いかけてくれて、優しく頭を撫でてくれて、転んで泣いていたら、慰めてくれて。そんな兄が好きだった。
あの頃は純粋に想っていた気持ち。清らかな水であったはずの自身の気持ちに、いつから泥が混じって濁ってしまったのか。
ううん。これ以上考えてはいけない。
あの頃のままだと偽りの気持ちを胸に、兄に全てを捧げないと。
何の準備かは分かってないけど、兄がそれで喜んでくれているのなら。
「うん、好き。大好き。この身体ごと、僕のことを受け入れて」
兄の背中に手を回すと、艶のある唇に自身の唇を重ねた。
気づかぬうちに流れ落ちていた雫に気づかないフリをして。
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