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春の誕生日と儀式に。3

兄と窓際で他愛のない話をしていて気づかなかったが、よく耳を澄ませると下男らの話し声や廊下側に二人、障子越しにその影が仁王立ちしていたことに気づく。 異様な様子に思わず、「外、何だか騒がしいね」と言ってしまった。 ハッとした葵人とは対照的に、「ああ、あれね」と言った。 「僕と葵が一緒になるための準備で慌ただしいんだよ。だから、葵は何も心配せずとも、声がかかるまで僕と話をしていよう」 「う、うん·····」 指を弄りながらも小さく頷く葵人に、「いい子」と頭を撫でる。 「いい子と言えば、今日までよく僕のいいつけを守って、この部屋から出ないようにしていたね」 そう言いながら、かつて柱に繋がれていた足首を兄の方へ引き寄せられ、まだ痕になっている部分を口づけをする。 足の縄が解かれたのは、今も掛けられている白無垢が来た時からだった。 白無垢を見せて、逃げられないだろうと思っているのだろう、だから、拘束する必要性がないと。 そうではなくとも葵人は逃げる気は毛頭無かった。 「だって、僕は兄さんのことが好きなんだよ。兄さんのいいつけを守るのは当然だよ」 「ふふ、そうだったね。でも、あそこの拘束は申し訳ないけど、したままにしてもらってるけど」 そう言いながら、口づけした足の膝裏を持って開かせようとしたのを、慌てて阻止する。 「兄さんっ、今、ここでは·····っ」 「恥ずかしがっているの? 可愛い。お風呂では遠慮なく見せているのに、ここではダメなの·····?」 瞬間、頬が熱くなるのを感じる。 最初はあんなにも嫌がっていたのに、それすらも慣れてきてしまったせいで、恥じらいも無くなってきていた。 その代わりに兄に触れて欲しいと。 寂しさを埋めるようにもっと触れて欲しいと、思うようになっていた。 「兄さんからしてもらうのが嫌なら、葵から見せて?」 「··········ぇ·····」 兄の言ってきたことに信じられないと思っていたのも一瞬のことで、さっきよりも顔を染めた。 こういうのを要求してきたのは初めてだったものだから、驚きと恥ずかしさで頭が真っ白になっていた。 だけど、その要求に応えないと兄の機嫌が損ねてしまう。 両手で掴んでいた浴衣の裾を強く掴んで、膝立ちになると、ぎゅっと目を瞑って、恐る恐る裾を上げる。 暖かな日差しに晒された葵人の中心部は、今の葵人の心境のように震えて縮こまっていた。

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