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春の誕生日と儀式に。5
息が整ったのと、疼きが治まったのは、碧人がいなくなり、代わりに何人かの下男が部屋に訪れ、何かと準備をしている最中の時だった。
ムクリと起き上がると、「さ、葵様。こちらに来て、お召し物を脱いでください」と促される。
少し恥じらいつつも、用意されていた姿見の前に立ち、おずおずと脱いでいく。
脱ぐとより貞操帯が強調され、思わずそこを隠すが、下男らに手を取られ、先ほどの浴衣よりも生地が薄い浴衣のようなものを腕に通される。
肘辺りにしか長さがないそれは、いわゆる肌襦袢 と呼ばれる物。足袋を履かされた後、その上に肌襦袢よりも肘辺りが長い、長襦袢 、腰辺りに紐やら小さな枕のような形をした物、白い板など次々と装着されていく。
その間は、「お腹に力を入れておいてください」と言われるものだから、わけが分からずともどうにかお腹に力を入れはするものの、二人がかりにぎゅうぎゅうに押さえてくるため、それに押されてしまい、なかなかできずにはいたけれども。
締めつけが終わり、小さく息を吐いていたのも束の間、袖が長く、足元も引きずるぐらい長い、これもまた白い着物を着せられる。
そこでもまた腰に先ほどよりも幅がある帯、小さな小物らが装着されていく。
これでやっと終わりかと思いきや、その上にようやっと部屋に掛けられていた、細やかな刺繍のある白無垢が通された。
なかなかに重みのあるそれを着た自身の姿を鏡で見てみると、ただ単に男が本来女性が着る白無垢を着ているようにしか見えない。
けれども、自身が兄の花嫁なんだと自覚せざるを得なくなったのは、化粧を施され、顔が隠れるぐらいの大きな、綿帽子と呼ばれるものを被され、改めて鏡を見た時だった。
口を半開きした間抜け顔が映り、そっと、鏡に手を触れる。
男でもこんなにも女性っぽくなるんだ、と。
いや、元々自分の顔が中性的な顔立ちをしているからかもしれない。よく兄が可愛い可愛いと言っていた。男としては複雑な気持ちであったが、今思うと、この姿が似合うと自画自賛してしまうものだから、あの言葉は褒め言葉として素直に受け取ることにした。
今も後ろに控えている下男の数人が口々に、「お綺麗な姿ですよ、葵様」「素敵ですね。碧人様の隣に並ぶところを早く見たいものですね」と賞賛の声を上げていた。
そんな声を浴びたのもあってか、早く兄さんに見せたいという気持ちと、再びチクチクと下腹部が痛み出してくる。
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