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春の誕生日と儀式に。8

微笑んでくる兄に微笑み返す。 「婚姻の儀を行います」 奥にいる父親とは反対側にいた下男が静かに告げると、葵人の後ろで控えていた別の下男が照明に照らされ、輝く金の注ぎ口が二箇所あるジョウロのような物を両手に持ち、ゆっくりとした歩みに、これもまたゆっくりとした動作で盃に注がれる。 漂ってくる匂いに、これがお酒だと分かると、「·····兄さん、僕まだお酒は·····」と小声で言うと、「唇を湿らすだけでいいから。かく言う僕もそうだから」と小さく笑って返す。 そうだった、と照れ笑いをし、何気なく入れ違いにやって来た下男が持って来た物を見て、小さく悲鳴を上げてしまった。 持っていた物──それは長い針だった。 先ほどの物とは違い、葵人の目には怪しく光り、それがより物騒な物に見えて、口元を両手で押さえ、目を震わせていた。 「な、何に使うの·····」 「いきなりだから、びっくりしたよね。こうやって使うんだよ」 安心させるように優しく言ってきた碧人はおもむろに右手の人差し指を盃の上に差し出す。 その指先に下男は躊躇いもなく、刺し──。 ぷっくりと出てきた血の滴が重力に従い、一滴、盃の中に注がれた酒へと小さな波紋を作り、じんわりと広がっていく。 その光景を呆然と見ていた葵人だったが、ふと我に返り、「兄さんっ、指大丈夫?」と眉を下げ、兄の指先を見ていた。 「心配してくれるんだね。優しい子。大丈夫だよ」 針を持っていた下男からハンカチサイズの白い布を受け取り、指先を拭っていた。 「このお神酒に僕達の血を混ぜることによって、僕と葵の身と心が一つに重なり合い、死ぬ時も一緒にいるっていう意味でやるんだ。針を刺す瞬間は痛みが伴うけど、ほんの一瞬だから」 優しく微笑む兄のお陰か、幾分かは和らぐが、やはり少々怖く感じる。 下男に、「さ、お手を」と言われても体が竦んでしまい、なかなか出せずにいた。 「葵。手を出して」 兄が手を差し伸べてくる。 僅かに嬉しくなり笑みを浮かべるが、それも束の間、首を振る。 「兄さんの手を煩わせるわけには·····」 「そんなの気にしなくてもいいんだよ。それに、僕がやった方が安心するかなって」 にっこりと笑いかける碧人に、気づけば引き寄せられるように手を差し出し、手を乗せる。 「いい子」と何故かその指先に口付けられ、そこからじんと甘い痺れが広がり、指先まで熱くなっていくのを悟られたくなくて、退けようとしたものの、意外にも強く掴まれ、簡単には離せなかった。

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