68 / 95
春の誕生日と儀式に。15
「にしても、葵人ちゃんのアプローチすごくない? 見ている俺らがその熱さでやられそうなんだけど」
「碧衣ちゃん、そこまで葵人と愛し合っていたのか·····」
「ち、ちげーよ! バカなことを言ってねーで、さっさと行くぞ!」
踵を返して、門へと走る。
あの後──桜屋敷の名前を教えた後、山中はちゃん付け、石谷は呼び捨てで呼び始めた。
自分だけの"葵人"じゃないように思え、軽く嫉妬をし、教えなければ良かったと後悔したことには自分で驚いていた。同時に小さく笑った。
ここまで一人の人に対して、ありとあらゆる感情がはっきりと出てしまうだなんて。
首元に、ついばむようなキスをしている葵人に今すぐにでも礼として、キスをしたくなる衝動を抑え、駆けていく。
門が見え、喜びの顔が思わず出た──瞬間。
「──そうはさせませんよ」
門の影から、顔を白い布で隠した、着物を着た男が数人現れる。
この数人程度なら、さっきの石谷がしたことをすればどうにかいけるだろう。
そう高を括っていると、それぞれ、多節棍、刀、鎖鎌を取り出していた。
夜の薄暗闇でもはっきりと見えたそれに、「ヤバヤバ〜っ」「クソっ」と碧衣が言う前に後ろの二人が慌てふためき、悪態を吐いていた。
「葵様をこちらに渡してくだされば良いだけの話なのですが」
「·····そんなの、ありえないな」
「左様ですか。では、力づくで·····─ッ!」
こちらに地を蹴って駆け出そうとした瞬間。
何故か、急に次々と地に伏せていく。
一体何が。──いや。
その三人が倒れた直後に見えた影があった。
「黒岩さんっ!」
真っ黒なスーツを身に包んだ、細身の男性が佇んでいた。
ともだちにシェアしよう!