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迫る真実 3
手を背中に添え、膝裏に差し込まれ、抱き上げられた。
突然そうされたものだから、怖くて必死になって西野寺にしがみついた。
「西野寺、君·····っ! 自分で歩けるからっ!」
「んなわけねーだろっ、とにかく大人しくしてろ。落ちるぞ 」
「あ··········うん」
そうして、西野寺の左胸に頭を傾ける。
自然とその形に抱きかかえられたから、心臓の音を聞いてしまう。
今の葵人と同じぐらい早まっている鼓動。
よっぽどさっきの言葉が嬉しかったのかな·····?と思うと、自然と笑みが零れた。
そうして、さりげなくぎゅっと手を握りしめた時、「·····あ」と声を上げた。
「どうしたんだ」
「·····え、·····と·····婚約指輪·····したままだったから·····」
誕生日プレゼントとしてはめさせられた指輪。
この指輪を見た途端、一刻も早く兄の元に帰らなくてはと思ってしまい、西野寺の手から離れようと思った矢先。
突如として首を振る葵人に「葵人?」と不思議そうな声を上げた西野寺をよそに、指輪を抜いた。
元から緩めなサイズにしていたらしく、抜きやすくて良かったと思いながら、「·····さよなら」と言って、手から離した。
落ちていく指輪を見つめ、兄の顔を思い出す。
兄に反抗したことがなく、恐れで身体が震えたものの、叱咤した。
これでやっと自由に。
「葵人·····」
「西野寺君、行こう」
「ああ·····」
安堵したかのような声を聞きながら部屋を出た。
友人の家に訪れたことが無かった葵人にとっては、見る景色全てが新鮮なものだった。
とはいえ、ほぼ自分の家と似た構造であったので、他の家ってこういうものなのかなと思って、ふと外の景色を見やった時。
「··········っ!」
見事な桜だった。
桜屋敷家の庭にある桜と負けず劣らずの、美しい桜。
ひらひらと舞い散る花びらに見惚れていた。
「親父はいるか?」
その間にある部屋の前に来ていたらしい、障子の前に控えていた女中に話しかけていた。
桜屋敷家に働く人達は皆、男であった。だから、女の人がこうして働く姿を見るのは新鮮で、同年代の女性以外はあまり見慣れてなかった葵人にとっては、好奇心でまじまじと見てしまっていた。
その視線に気づいたらしい女中は、こちらに、にこっと笑いかけた。
驚いて、慌てて西野寺の胸に顔を埋めた。
「どうした、葵人?」
「な、なんでも·····ない·····」
「うふふ。お可愛らしいですね。碧衣様にお似合いの方ですね」
「·····なぁ、黒岩さんの時も思ったが、なんで俺らがそんな関係だと·····?」
「その黒岩さんから聞きまして。あの碧衣様がこうして誰かを想う日が来るとは·····。毎日お二人の関係がどうなっていくのか、我々の日々の大きな楽しみなのですよ」
「·····あぁ、そう·····」
すっと黙ってしまった西野寺のことを不思議そうに見上げつつも、今言った女中の言葉でここで働いている人達に筒抜けなのかと思うと、今度は恥ずかしくてさらに顔を埋めていた。
「葵人·····くすぐったいんだが」
「ご、ごめん·····」
「まぁいい·····。通させてくれ」
「分かりました」
旦那様、碧衣様と葵人様のお見えですと、中に声を掛けた。
「通してくれ」
中から男性の声が聞こえた。
途端、緊張が走った。
掴む手に汗が滲む。
そんな葵人のことを気づかない西野寺は、女中が障子を開けた共に中に入る。
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