82 / 95
迫る真実 5
「無理して聞く必要はないからな」
首を横に振る。
「僕、何も知らなかったから知りたい。教えてください」
ローテーブルにコップを置いて、父親に頭を下げる。
「──分かった」
小さく息を吐きながら短く言った父親に対し、「ありがとうございます」と再度頭を下げた後、父親はこう話した。
──まだ、桜屋敷が同じく西野寺と名乗っていた頃。
当時小作人であった後の桜屋敷家は、明治頃に名前しか無かった者にも名字を名乗っていいという制度ができ、当時の西野寺家から、"西野寺"という名字を与えられた。
そこで本家と分家となり、親戚関係となった両家。名字を与えくれたお礼として、分家に女か男が産まれたならば、嫁に、婿に出すこととなった。
両家はそれで長年良好な関係を築いていた。──が。
ある日、分家の長男として産まれた者と、将来本家の娘と結婚する約束がいつものように行われていたのだが、勝手に約束された腹いせなのか、あろうことか、血を分けた兄弟と交わってしまう。
しかも、それをたまたま見てしまった当時の本家の当主は怒り狂った。
三日三晩恨みつらみを込めて呪いをかけ、その分家とは絶縁をしたのだという。
それが今の西野寺家と桜屋敷家の形となった発端となった。
「···············」
父親が口を閉じた瞬間、誰も彼も一言すら口に出せず黙り込んでいた。
耳が痛くなるぐらい静寂の部屋。しかし、葵人の頭の中ではうるさいぐらいざわついていた。
そんなことを桜屋敷の先祖はしてしまっただなんて。
それはこちらは悪い。こうなってしまったのは罰なんだ。
そうか。だから、この家の庭にあった桜が桜屋敷のと似ているのはそういうことだったからなのか。
だとしたら、僕はここにいるべきではない。
同じ罪を犯した兄の元に行かないと。
「あの·····っ」
「葵人」
立ち上がった瞬間、西野寺に手を掴まれた。
「言っただろう。お前が責任を感じなくてもいい、と」
「でも·····っ」
「碧衣の言う通りだ。今の桜屋敷家の者がしでかしたものではない。だから、葵人君が悪いわけではないんだよ」
「···············はい」
とりあえず葵人が座ったのを見て、「しかし」と西野寺の父親は言葉を続けた。
「とはいえども、呪いというのは簡単には解けない代物だ。こっちがしておいてなんだが、解き方すら何も伝わってないから、手の施しようがない」
「そう、ですか··········」
「申し訳ないことをしてしまった」
「あっ!いえ!気にしないで、ください··········」
ともだちにシェアしよう!