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第7話
「馬鹿ですか!!!超注目されてる!!女子高生めっちゃ笑ってる!!!」
朝の駅のホームで、なんでこんな目にあっているのか。
理不尽な柴崎の朝の挨拶運動に巻き込まれるくらいなら、さっさと立ち上がって改札を出てればよかった。何でこんな目に…そんなことを思う旭の血の気の引いた真っ白な顔色は、柴崎によって今度は真っ赤に染められていた。
「お、学校さぼるなよー!いってら!」
「手を振りかえすな!不審者かまじで!!」
「先輩を不審者扱いとは失礼な奴だな。」
不服そうに唇を尖らすその姿に、男なのに可愛いと思ってしまう。この先輩はたまに、こういうあざとい顔をするのだ。それに絆されかけるのがなんとも悔しすぎる。
朝っぱらから事案作るのだけは勘弁してください。とだけ言うと、時間を見て慌てた。
「言いたいことは沢山ありますが、差し迫ってるんで失礼します!!」
「走って転ぶなよー!」
あんたは急がないんかい!と言いたかったが、飲み込んで走る。
朝からなんでこんな疲れなくちゃいけないんだ。と悪態を吐きたかったが、それはそれで負けている気がしたのでやめた。
柴崎の破天荒さは恐らく反動だろうなぁ、と生意気に考察してみたが、あながち間違いじゃないだろう。
それくらいお客様対応や取引先対応については、お前一体だれだよ。な具合にキャラが違う。今度酒の席で指摘してやろうか。
ちょっとは振り回してやりたいな。
そんなことを考えていたらふにゃふにゃと口元が言うことを聞かなくなった。
あんなに具合が悪かったのに、あのやり取りのおかげで意識が全部持ってかれた。
助けられたつもりはないけれど、なんとなく今朝のことは忘れられなさそうだと思った。
「売り上げは出し忘れたので、あとで事務所に貼っておきます。」
少し頼りない男性マネージャーは木内という。
彼は最近着任してきたばかりで、新宿の店舗では紳士靴売り場を担当していたらしい。
「次に、交換台を通しての客先への電話についてですが…」
朝礼と同じ内容を昼礼で話す。たまに追加事項もあるが、基本は遅番出勤者に向けての連絡事項だ。
「…んふっ」
だから朝からいる旭にとってはなんだか眠くなってしまうなぁ、というくらいの退屈さに欠伸をかみ殺す。
朝礼も昼礼も旭がいるので、事務所の社員もそういうものだと思っている。なんでこんなことになっているかというと、旭以外が手を離せない状況になり、代わりに昼礼に行ったことから、それが当たり前になってしまったからなのであった。
別にメモ取るの嫌いじゃないからいいんだけどね。
ただ、木内さんに至っては、え?またお前が出るの?と目が雄弁に語っている。知らないふりを決め込むけども。
噛み殺したあくびを飲み込むついでに、散らかった思考もまとめる。
昼のこの時間が、旭にとってはかったるくて仕方がない。
「これで昼礼を終わります。が、旭君は別件があるので残ってください。」
「え?」
流れに沿って帰ろうとしたところ、抑揚のない声で呼び止められた。
欠伸か、噛み殺したのにばれたのか。
興味津々ですという、去り際の視線にいたたまれなくなりながら立ち尽くす。
「君は毎回いるけどどうして?」
やはり疑問に思っていたらしい。旭からしてみたら、他に気にするところがあるだろうという気分だが。
神経質そうな眼鏡の奥の視線がうざったい。なんとなく、じゃ返してもらえないだろう。
「手が、離せなくて。」
「毎回?」
なんだこれは。別に悪いことしてるつもりないのに責め立てられているようでいたたまれない。
「すみません…。」
「別に怒っているつもりはないんだよ、ただ少し気になってね。」
「気にしてくださりありがとうございます、タイミング的な問題なんで大丈夫です。」
「あぁ、ならいいんだが。」
話は終わりだろうと勝手に見切りをつけて、一礼してから逃げた。
欠伸を注意されたわけではなかったけど、変に心配されるのはどうにも苦手だった。
「戻りましたー。」
「おかえりー、居残ったんだって?なんか言われた?」
「なんかよくわかんないですけど、また来たの的な。」
「ふーん。とりあえず絡んでみたかっただけじゃないの?」
藤崎の適当な返しにとりあえず笑っておいたが、内心はンなわけあるか。と言い返しておいた。
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