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第17話
恐ろしいくらいの回転率で、本日のフロア一位を見事にもぎとったキングスパロウのメンツは、人気ブランドの華やかな販売員の皮を脱ぎ、死屍累々としていた。
こんな具合じゃ声をかけたくてもかけられない。
レジルームに締めの売上票を取りに来た際におつかれと言ってみたが、旭がなにか言いかけた瞬間大林に絡まれていたので、実質今日も会話はほぼない。
許すまじ大林。ことごとく間の悪い男である。
「抱いてから一回も口きいてねぇ…。」
もはや日を数えることすら怖い。どうにかきっかけを作らねばなるまいと、空気を読んで行動を移すタイミングを見計らわなくては、また距離が開く気がする。
これは経験が物語っているので間違いないだろう。
そんなことを思い頷いていれば、あの!と声をかけられた。
「柴崎さん、忘年会って今年もやりますよね?」
「それだ。」
「え?」
まさき光明である。合法的に会話が生まれるイベント!まるで天啓だ。さり気なく飲み会の席で横を陣取れば否応なしに会話は生まれるし、あいつの反応も見られる。
柴崎はなにか思いついたようににやりとした。助けを出したのが、旭狙いの女ってとこが気に食わないが今回ばかりは感謝である。
「やるやる。5日前に店押さえる感じでおけ?」
「了解でーす!」
敵認定した相手がヒントをくれたのは癪だが、年明けまで会話無しは免れた。今年も宜しくお願いしますが初会話とか嫌すぎる。よい御年をもだが。
とりあえず、キンスパメンツ初参加ってことでオープン前にお伺いを立てなければ。よし、滾ってきた。
「お知らせチラシと伺いは俺がたてるから、君はおいしい店ググっといて。」
「柴崎さん優しい!お願いします!!」
ちょろい女めと思ったが、まさか相手も男と張り合うことになるなんて思わないだろうなと考え直すと溜飲が下がった。
「打ち上げは焼き肉です!!!」
一番のイベントシーズンを乗り切れば、まちに待った慰労会である。
初のメンバーで大波を乗り切ったことと、予算を遥かに上回る売上を叩き出したこともあり、本日は肉祭りである。
もちろんご機嫌な営業からは経費で落としていいよと神がかったことを言われたのでありがたくそうさせていただく予定だ。
「うおお!店長太っ腹―!」
「藤崎さんの言い方!」
「体型のこと言ってるならキレる。」
「Amazing!!!」
「急に帰国子女出すな!!」
「あめいじんぐってどういう意味。」
「店長が最近奥さんに言われていないことですよ。」
「だから言い方!!」
日頃ぎすぎすしている藤崎へも、今回ばかりは無礼講だ。旭はもっぱらツッコミ役にまわる形になっているが、これはこのメンツだからで、本来なら旭もボケである。
苛烈を極めたクリスマスも終わり、ぶち上がった達成感に個々のテンションが付随してきて突っ込みが追いつかない。
遅くれたギフト客の対応はあるだろうが、慌ただしさはぐっと減るだろう。セール準備はあるので、それも束の間のことだろうが。
肉も進めば酒も進むようで、大衆向けに好まれる雰囲気に流されながら、避けていた話題になった。
「前にした紹介の話覚えてるか?」
きた。と思った。
なぜかはわからないが、最近やけにこの手の話題を振られるのだ。
旭は関係ありませんよ、というような顔で聞き役に回るつもりでいた。
「藤崎さんって恋愛結婚だったんですっけ?」
「できちゃった結婚。」
「恋愛してないのに紹介するとか言い出したんですか!!」
坂本のド正論に全く持ってその通り、と相槌を打つ。
正直な話、彼女なんて卒業以来いたこともなければ終わり方も自然消滅だ。
自然消滅ってなんだ。連絡が空いた旭も悪いが着信拒否することはないだろう。今更ながら腑に落ちない。
「ちなみに俺は恋愛結婚ね。」
「後にしてください。」
藤崎のできちゃった結婚発言を引き出した坂本は、藤崎さん男前ですね!!と斜め上の発言をしている。
敬うならいじけてる店長の恋愛結婚を敬いなさい。なんて思い、苦笑いを通り越し顔が引きつる。
「恋愛の話以外にしましょうよ…。」
「じゃあ肉欲?」
「ハラミ。」
「保健体育の方だよバーカ。」
肉と肉欲繋げんじゃねえ!と低俗な流れに突っ込みそうになるも、トングで鼻を摘ままれそうになったので慌ててよける。酔って無邪気になった藤崎はアウトローすぎて困る。
店長はいじけながらも箸は進んでいるようで何より。
「旭さんってもしかして童貞!?」
「そうなのか、なんか…ごめんな。」
「違うって!」
坂本は酒が進んでいるのであろう。無礼講を忠実に守るあたりプライベートな内容も容赦がない。
「最近いつシた。」
「別にどうだってよくないですか!?」
テンポの良い会話を打ち切るように口にした。正直当事者過ぎて上手くごまかせる気がしないからだ。
「怪しい…。」
じっとりとした声色で呟いたのは、先ほどまでいじけていた北川だ。
気づいたらだいぶ飲んでいたのか、完全に目が座っている。
「普通ご無沙汰なら、笑って流すのがセオリーだろう。」
フフン、とほくそ笑みながら見つてきたかと思えば、賛同するように二人の目もこちらを捕えた。不味い、非常に不味い。
なんで後も鋭いのかわからないが、やはりそれは旭のスルースキルの経験値が足らないからだろう。誤魔化すように水を飲んだが取り繕えない。
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