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逃亡***2
しかし部屋の外に見張りはいるだろうし、今から逃亡することを彼らに知られるわけにはいかない。
マライカは声を上げまいと必死に唇を引き結び、足を引きずりながらも窓に手をかける。土壁に生じている微かな窪みに手をかけ、鉛のように重い両足を土壁に固定して、ゆっくり慎重に階下の部屋まで動かす。
少し後ろに視線を下ろせば、蝋燭の明かりだろうか、集落が連なる家の所々ではまだ照明の光が揺れている。
鋭い痛みに襲われ続けるマライカはほんの少し目を閉じた。ここへやって来た当初に見た要塞を思い出す。ジェルザレードはまるで蟻の巣のように混雑し、うねっていた。
無事に逃げ出せる自信はない。
けれど――……。
それでも何とかしてこの要塞を抜け出し、両親に逃げるよう伝えなければ!
怖じ気づきそうになる気持ちを奮い立たせ、ふたたび目を開ける。マライカは壁につけている両足を交互に動かす。
あともう少しで1階の部屋窓に到達する。下肢に力を入れ、さらにもう一歩を踏み出した時、マライカが思っていた以上に、腰に負担がかかっていた。さらなる激痛が腰から全身に向けて駆け巡った。
その激しい痛みに我慢できず、とうとう声を上げてしまう。
さらには身体を固定していた手からも力が抜けた。あっという間に地上へと落下した全身は地面に打ち付けられ、骨が軋みを上げる嫌な音がした。
マライカは痛みのあまり、さらに大きな声を上げてしまう。おかげで見張り役にマライカの逃亡を知られてしまった。
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