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若き鷲の頭***4
そんな両親の間に生まれたのが彼、この世で最も稀少とされるオメガのマライカ。3人の暮らしぶりはけっして裕福とは言えないが、ごく一般的な家庭だ。そして1週間ほど前に大富豪ダールとの結婚も決まった。
しかし、この結婚、何かが引っかかる。
ファリスが判らないのは、マライカがなぜダールに嫁ぎたいと思ったか、だ。
彼はコレクターとしても名が知れており、目的の物を手に入れるためなら手段を選ばない。ファリスたち盗賊の中でも忌み嫌うほどの有名人だった。
果たして彼の両親は手塩に育てた大切な我が子を嫁がせるのに、夫となるダールの身辺を調べなかっのだろうか。叩けば出てくるだろう埃を見逃すのはなぜなのか。
ファリスがマライカを拘束しなかったのは、彼もまたダールに何らかの弱みを握られ、結婚を余儀なくされている可能性もあると考えたからだ。――そう、ファリスが大切に想っていた彼女のように……。
もし、そうであるならば、これ以上の体罰は必要ないと思ったに過ぎない。ファリスとて人間だ。況してや彼は裏社会に生きる反社会勢力であっても犯罪組織ではない。無闇やたらと人を傷つけ、拘束するような真似はしたくなかった。
それというのも、夕刻、ファリスが数週間ぶりにマライカと再会し無理矢理組み敷いた時。彼は涙を流し、捕らえた張本人の自分に縋りつき、咽び泣いたからだ。
――いや、それだけではない。
疑問はまだある。
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