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若き鷲の頭***5

 もし、マライカがダールを慕うなら、ファリスが彼を組み敷いた時、忌々しいあの男の名を呼んでもいい筈だった。しかし、マライカは悲鳴を上げるばかりでダールの名前すら叫びもしなかったのだ。自ら進んで嫁ぎたいと願った夫の名を、彼はなぜ叫ばなかったのか。  彼を組み敷いた当初は、てっきりダールとの身体の相性で嫁ぎ先を決めたのかと思った。オメガは性を司る。人類最初の女性エバのように神聖な存在だ。たとえ相手が同性であっても子を宿すオメガという性に、世間では凡愚、劣等種などといった言葉で彼らを蔑み罵るが、少なくともファリスはそう考えている。  それ故に、ダールの技巧のまま身を任せ、性の虜になったのだと思ったのだ。しかし、ファリスが無理矢理奪う寸前まで、彼は生まれたままの無垢な身体そのものだったのだ。  情交が目的ではないのなら金目的の結婚なのか。彼は大富豪の家に嫁ぎたかったにすぎないのだろうか。たしかに、ダールに嫁げば金銭には困らないだろう。だが、ダールに身を寄せれば最後、自身を滅ぼすことになるのは目に見えていた筈だ。それに、両親から愛情深く育てられた彼が、愛よりも金を欲するとは到底思えない。  そして最後の疑問。酷い仕打ちをした本人であるファリスに、彼が泣きすがったことだ。  これには何かありそうだ。  ファリスの勘が働いた。そしてその勘は今まで外れたことはないのだ。 「枷をする必要がないと思ったからしなかった。ただそれだけだ」 「ほう?」  ムジーブの太い眉が眉間に寄る。  ファリスの端的な言葉に、彼はまだ不服そうだ。

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