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苦痛。***5

 いくら攫われたとはいえ、自分が逃げることで、幼いターヘルがファリスから体罰を与えられるのは気が進まない。たとえ囚われの身であっても、幼い彼には何の罪もないのだ。  とにかく、気ばかり急いてもしょうがない。今、この身動きが取れない身体であれこれ考えるのは得策ではない。  自分にできることは逃亡の隙を窺い、それに向けて傷を癒やし、体力を取り戻すことが先決だ。ターヘルのことも、両親のことも、また後々考えることしか、傷だらけの今の自分にできる手立ては何ひとつ残されてはいないのだから……。 「あの、痛み……ますよね」  大きな目は涙で潤みきっている。今にもその目から零れてしまいそうだ。無言で考え事をしていたマライカの顔を覗き込み、ターヘルが心底心配そうな面持ちで訊ねた。  やはりこんな可愛い子に酷い仕打ちはさせたくない。  心優しいこの少年がファリスの毒牙にかかっているなどとは考えたくもない。 「……少しだけ」  マライカはターヘルに余計な心配をかけさせまいと笑みを浮かべた。  正直、指一本、眉ひとつ動かすのも苦痛ではあるが、全身に駆け巡るこの痛みをわざわざ自分よりもずっと幼い子供に話す必要なんてない。マライカは彼に嘘をつき、そう言ったのだが、いかんせん態度は正直なものだ。  マライカ本人が思っている以上に身体は弱っていた。返事は細く、震えていて、浮かべた微笑も彼から見れば弱々しく思えたのだろう。ターヘルの細い眉はさらに悲しそうに垂れ下がった。

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