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苦痛。***6

「あの、痛み止めのお薬をお持ちしたんです。でもその前に何か口に入れないといけません」 「食欲がないんだ」  マライカは痛みに耐え、言葉を詰まらせながら話す。 「せめて……フムスひと口だけでもいいですから……でないと、ファリス様に怒られてしまいます」  真剣な眼差しは大きく揺れている。  そこで初めてターヘルの背後にあるナイトテーブルの上に、平皿とコップが乗っているのが目に入った。  これもファリスに命じられ、彼が用意したものだろうか。  ターヘルはやはりファリスから体罰を与えられるのかもしれない。彼は嘘をついている可能性がある。  ともすれば、やはり無下にはできない。 「わかった。ひと口食べるね」  マライカは静かに頷いた。 「あ、ぼくがお手伝いします!」  マライカが頷けば、今まで曇っていたターヘルの表情が一変して明るくなると、細い腕がマライカの背を起こした。そして空いている方の手でフムスをスプーンで掬い、マライカの口へ運ぶ。  フムスが掬い取られたほんのひとさじのスプーンからは、ほんのりひよこ豆の香りがする。硬さが調節できるフムスだが、本来はピタパンと呼ばれる薄い生地のパンに乗せて食べるため、ペースト状にするのだが、彼が用意してくれたフムスはそこまで口を動かさずに飲める、殆ど液体に近いスープになっていた。  ……ひょっとすると、ターヘルの身内には病人がいるのだろうか。マライカを介抱する手つきがあまりにも手慣れている。 「えっと、痛み止めのお薬です。飲んでください」

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