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heat***11
彼に心を許した身体は従順だ。初めてのヒートは不安と恐怖さえあったのに、今はどうだろう。この先にあるファリスとの行為さえも心から望んでいる自分が居る。
そんなマライカに対して、しかし彼はマライカが待ち望むものをなかなか与えようとはしてくれなかった。
今やマライカの身体にあるのは、ヒート特有の熱だけではなかった。彼に抱かれたいという純粋な気持ちが溢れている。
それなのに、彼からはマライカを抱く気配を一向に感じない。
たしかに、マライカのヒート状態は続いているし、彼を誘惑している。
ファリスだって情交を望んでいるのはたしかだ。その証拠に、深い口づけを返してくれた。
それに、こうしている今もマライカの下肢に触れている楔は引き締まった鞘に納めたいと言わんばかりに張り詰めた状態で存在している。彼もこの苦しみから解放したいと思っているだろう筈が、しかしそれもほんの束の間だった。
「――だめだ、マライカ」
言うなり、ファリスはふたたびマライカの肩口に顔を埋め、歯を食い縛る。
ヒート状態に当てられた者は誰しもが欲望を剥き出しにする。過去にはオメガを抱くためなら手段を選ばず、抱き殺してしまう事例さえもあった。
だからてっきり、ファリスもマライカの初めてを奪った時のように欲望のまま貫き、解放するのだと思っていた。
それなのに……。
今はどうだろう。相手がいかなる者でも狂わすヒート状態のオメガを前にしても、彼は確固たる意思を保持し続けている。それがマライカにとっても驚きでしかない。
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