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heat***10
噛み締めた唇から一筋の血液が流れ落ちる。
「マライカ……」
呼ばれた声はとても優しい。
彼は本当に自分の身体を暴いた男だろうか。
獲物を見るような鋭い目は徐々に消え、吸い込まれそうな宇宙の色があった。
この目は知っている。
ダホマの酒場で野次を飛ばす男たちから守ってくれた目。
そして――初めて身体を奪ったあの時。恐怖に負けて泣きじゃくっていた時に、慰めてくれたあの男性。
忘れたくても忘れられない、マライカの心に占めている初恋の人。
今、彼は自分の目の前にいる。
会いたかったのは若き鷲 の頭としてではなく、この男性ただひとり。
「ファリス……」
胸に込み上げてきた感情が溢れ出し、あたたかな涙となって頬を伝う。
マライカは身体中を覆う熱よりもずっと深い、芯から熱くさせるものを下腹部に感じた。
彼を見ているただそれだけで、愛おしさが込み上げてくる。目から込み上げてくる涙は悲しみでも苦しみでもない。初恋の男性 に逢えたという喜び、ただそれだけだ。
「ファリス……」
(ぼくの初恋の人――……)
マライカは自らの唇で彼の傷ついた唇をなぞる。
分厚い唇からくぐもった声が発せられたかと思うと、次の瞬間にはマライカの唇を貪る。
自ら差し出した口づけは、今や彼のものだ。
マライカは与えられる口づけに酔い、彼に身を任せた。
差し出された長い舌を絡ませ、口角を変える。
二人きりの室内にはただ、互いの唇から発せられるくぐもった声と水音のみが発せられた。
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