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heat***9
仰向けになって身体を開くマライカは、ありとあらゆる恥ずかしい箇所がすべて彼の目に写っている。
それでも心はけっして幸福に満たされることはない。
望んでいない情交の先には、ぽっかりと穴が空いたように虚無の闇が広がり続けている。
マライカを獲物のような目で見る視線に耐えられなくなって閉ざせば、目尻からは冷たい涙が零れ落ちた。
彼は、マライカの足を広げ、ベッドに押さえつけて固定する。
自分の今の状態をわざわざ目にしなくとも、自分の身体がどんなに淫らなのかは十分に判る。
肉壁は開閉を繰り返し、蜜を流しながら今か今かと楔の戒めを待ち望んでいた。肉壁が動くたびに水気を纏った粘膜が艶めかしい肉音を響かせているのだ。
鋼のような鍛えあげられた肉体が覆い被さってくる。
(抱かれる!)
マライカは覚悟して唇を引き結び、両の目を固く瞑る。
彼の吐息が肩口に触れた。
マライカの覚悟は、しかしどうしたのだろう。
彼はマライカの肩口に顔を埋めたまま一向に動く気配がない。
恐る恐る閉ざした目を開き、自らが誘惑した男を見やれば――なんということだろう。彼は歯を食い縛り、何かに耐えているようではないか。
常に冷淡だった表情は苦痛に歪んでいる。
マライカは目の前にいる男の姿に自分の目を疑った。
「オメガとはこれほどまで……くそっ!」
ファリスはまるで姿の見えない敵と戦っているようだ。
ヒートになれば子を宿すためなら相手が誰であろうと見境無く誘惑する。その誘惑のフェロモンは自我さえも奪い、狂わせるほどの強力なものだ。
それなのに……彼はそれを耐えるというのか。
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