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心乱される存在***1
Ⅷ
いったい今は何時だろう。
空が白じむ頃、ファリスは意識を取り戻した。
身体が鉛のように重く怠いのは、今、自分の腕の中にいる彼に惑わされ、ありとあらゆる方法で抱いたからだ。それも、自分の中にある精をすべて注ぎきるほどに――。
しかし自分以上に疲労しているのは抱かれる側だ。
オメガとは、これほどまでに人を狂わせるものだとは思いもしなかった。
ヒート状態になったオメガは強力な甘く馨しいフェロモンを放ち、そのフェロモンの誘惑に充てられると自我を失う。
オメガに関する噂も兼々耳にしたことがあったものの、想像以上の効果に驚いた。
今のファリスはまさに、精も根も尽き果てた状態だ。
ならば彼はどうだろうと腕の中にいる人物の様子を窺えば、長い睫毛は斜の影を作り、深く目を閉ざしている。やはり疲労は隠せない。ぐったりと身体を沈みこませるように静かな寝息を立てて眠っていた。
――どうやら脳しんとうの後遺症もなさそうだ。
今の今まで1ヶ月前に2階から落ちたことを懸念してターヘルを側に置き、報告は聞いていたが、ファリス自身の目で見ても心配に及ばないことだと理解した。
ほっとひと安心するものの、それにしても恐ろしいのはオメガのフェロモンの強さだ。
オメガが気絶すればヒート状態に放つフェロモンは一時的に治まるのか、はたまたアルファの精が尽きたから、もうフェロモンが効かなくなったのか。よくは判らないが、取り敢えず今は彼をこれ以上抱かずに済む。
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