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心乱される存在***8

 思ったより大きな声で制した主人の言葉に、ターヘルは半ば怯えたような口調で謝罪した。その声音に、ファリスははっと我に返る。  なぜ自分は自分よりもずっと年下の相手にさえけん制しているのだろう。 「いや、大声を出してすまなかった。ドアを開けずにそのまま聞いてほしい。ターヘル、お前に使いを頼みたい」 「はい、ファリスさまのお願いなら」 「外にいるムジーブと繋ぎを取り、至急、『nlad01』という薬を手に入れるよう伝えてくれ」  ファリスが言った薬名はヒートを抑制するものだ。ずっと高価な薬ではあるが、ファリスにとっては差ほど気にする額ではない。それよりも、この状況が1週間も続くことこそがファリスにとってもマライカにとっても都合が悪い。 「それは……マライカさまの病を治す薬でございますか?」 「ああ、そうだ」  病とまではいかないが、今はまだターヘルにマライカがオメガだという事実を話す必要もないだろう。ファリスはただ頷くに留めた。 「かしこまりました」  ターヘルの声はずっと力が入っている。彼はマライカを救わんと必死だ。返事だけでもマライカを実の兄であるかのように慕っているのがよく判る。その返事を最後に、ターヘルの足音が遠ざかって行った。  さて、これでヒートが治まれば良いのだが――。  ファリスは肩口に額を乗せ、じりじりと襲い来る欲望の波とふたたび戦わねばならなかった。 《乱される存在。・完》

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